彼女に感謝

「それじゃ各自、部屋に荷物を置いてから20分以内にレストランに集合するように。もし時間に遅れた者は昼ごはん抜きとなるので、気をつけるように」


ロビーで全員に向けて、学年主任がそう言った後、担任から部屋のルームキーを渡される。

ちなみに男子は8階から11階、女子は4階から7階で分けられているそうだ。


そして、ぞろぞろと民族大移動のようにエレベーターと階段を使い、それぞれのフロアに分かれていき、各々の部屋に入っていく。

おれは10階の10号室だった。


「はぁー……」


部屋に入るなり、ため息を吐きながらとりあえずベッドの上に寝転がる。

部屋は8畳ほどの広さでスッキリとした室内となっており、1人で使うには丁度良い広さだった。


「さて……」


おれはベッドから起き上がると、キャリーバッグに入っている荷物を出していく。

衣類などは部屋の机の上に、洗面用具は洗面台に。

そして、中に入れていた小さな肩掛けのポーチに財布やら携帯やら必要なものを入れた後、部屋を出た。

そしてエレベーターで2階まで下り、レストランへと向かった。


レストランには既に大勢の生徒がおり、その様子から食事も始まっているようだった。全員揃ってからじゃないんだと思い、少し驚いた。まぁ揃うの待ってたら開始が遅くなるもんな。一般のお客さんもいるから、ホテル側から時間についても色々言われてそうだしな。


レストランはバイキング形式で修学旅行の班とは関係なく、自由に席を決めて食べられるようだった。しかし、その配慮が個人的には今は嬉しくなかった。


「……」


やばいな。どうするか……

学校なら中庭に行って、ゆっくりと1人でご飯を食べることができるが、ここじゃそうはいかない。

しかし、1人でテーブルを占領するのもどうかと思うよな……

かと言って、食べないわけにもいかないし……

新幹線の中で多少お菓子を食べたとはいえ、主食ではないので、腹は空いている。

その上、昼ごはんを抜いて、午後の修学旅行を楽しめるとは思えない。きっと、空腹のことばかり考えてしまうだろう。

こうなったらやっぱり覚悟を決めて、テーブルに座るべきか……


おれが入り口のところで非常に頭を悩ませながら、突っ立っていると。


「あたし達が座れるように先にテーブル確保してもらえると助かるんだけど」


いつの間にか隣に立っていた遥香がそう言ってくれた。

あたし達。それはつまり、穂花もということだろう。


「あ、ああ……そうだな……」


おれは遥香に言われた通り、レストランの中へと進み、適当なテーブルを確保し、椅子に座った後、心の中で遥香に感謝するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る