心の赴くままに

「ふふん、また私の勝ちね」


誇らしげに言いながら、遥香は最後のカードを出した。


「ほんと強いね、遥香……」


「ああ、全くだ……」


そんな遥香とは裏腹におれ達、2人には暗い空気がどんよりと漂っていた。

無理もない。ウノを始めてから約1時間。

今まで遥香がずっと1位なのだから。もはや、全く楽しくない。トランプの時以上に無双状態が続いている。神様、遥香に対して、チート効果付けすぎだと思う。軽くトラウマになりそうな気分だ。


「えー、それではそろそろ京都に着くから全員席に座り、すぐに降りられる準備をするように」


そんな時、車両の一番前にいる学年主任からの声が聞こえてきた。

助かった……

正直なところ、これ以上、ウノをやる気力はどこにもなかった。


「ちぇっ、もう終わりか……」


ボソッと文句を言いながら、遥香はウノのカードをまとめてから箱にしまっていった。

やっぱりまだやるつもりだったな……

これは帰りの新幹線も同じことが起こりそうだな。

今から覚悟しとくか。激しく気が重いが……


おれは軽く溜息を吐きつつ、学年主任に言われた通りに荷物を整理し、準備を進めていく。といっても、キャリーバッグからはお菓子と飲み物を取り出したくらいだったので、すぐに準備は終わった。

そして、10分ほど経ってから新幹線は京都に到着。


ぞろぞろと全員が新幹線のドアからホームに降り、そのままエスカレーターを降り、改札を抜け、近くに止まっていたバスに乗り込む。


バスで20分ほどのところにおれ達が泊まるホテルがあるそうだ。


バスもまた3人席であり、おれ達は新幹線の座席同様に並んで座る。何故か座る位置も同じだった。これも遥香がおれが困らないようにと手配してくれたのだろうか。その配慮には感謝しかない。


そんな中、おれはバスに揺られながら、窓から外の景色を眺める。

外の景色には秋を感じさせる綺麗な紅葉が所々に広がっていた。バスが赤信号で停止するとその景色を写真に撮っているクラスメイトもちらほらいた。


ようやく来たんだな。

おれは1人でそんなことを実感しながら、外の景色をずっと眺めていた。

と、その時。


「ん?」


ポケットに入れていた携帯が震えた。一回震えただけだったのでどうやらメールらしい。

おれは誰だと思い、携帯を取り出し、メールを開く。


そこには短文で。


「心に正直になれよ」


と書かれてあった。差出人はなんと親父。


心に正直になれってどういう意味なんだろうか……

あ、あれか。せっかくの修学旅行なんだから、迷わず楽しめってことかな。

なるほど。妙に回りくどい言い方だが、それなら納得だ。まぁできれば、もう少しわかりやすい表現の方が良かったけど。


「メール?珍しいじゃん。誰から?」


おれが携帯を眺めていたので、それを見ていた遥香が聞いていた。


「珍しいは余計だけどな。親父からだったよ。楽しめって」


「そっか。ならその言葉通りに楽しまないとね」


「ああ」


おれはそう返事をしながら、携帯をポケットに閉まうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る