言い値でいいから

「ほらほら、早くしなさいよ」


「いや、少し待ってくれって……」


目の前に差し出される2枚のカードを交互に見つめながら、おれは小さく呟く。


右か左か……

いやいや、複雑に考えるな……

こういう時は直感で選ぶべきなんだ。

よし、だったら右だ……

いやいや、待て待て。

右のカードは左のカードに比べて、少しだけだが折り目が入っているような……

それに遥香もしきりに目で右のカードを気にしているようだし……


くそ、ダメだ。選べない。

イエスかノーか。表か裏か。単純な2つの方が選べない。人生って選択の連続なんだな。よく分かった。


「ってババ抜きにどんだけ時間かけてるの?」


その言葉に沈みかけていた顔を上げると、苦笑いを浮かべた柳が通路側に立っていた。手には金のかかってそうな一眼レフを持っている。


「あれ、なんだか久しぶりな人がいるな」


学校でも中々会わないし、ここ最近プライベートでも遊ぶ事がなかった気がする。


「私もそう思うよ。作者が中々登場させてくれないから」


「作者って何のことだ?」


「分かんない。なんか、突然そんなことが言いたくなって」


「なんだそりゃ。それにしても何やってるんだ?」


「何って修学旅行と言えば、写真撮影は付き物でしょ?」


言って、パシャパシャとおれ達の写真を撮ってくる。あ、多分、今、目つぶりしてしまった。撮り直して。


「お前が撮影係ってことか?」


「私だけじゃなくて新聞部全員でね。記事にもできるし、写真代で部費も調達できるからね」


「なるほどな」


そういうところは相変わらずしっかりしてるなぁと思う。


「そんなことより早く選びなさいよ。時間かけすぎ」


おれ達の会話を黙って聞いていた遥香が少しだけムッとした感じでそう言ってきた。

そういや、この2人って文化祭の時、やけに揉めてたっけ……

あの時の二の舞いにならないように遥香の言う通り、早くカードを選んでしまおう。


そうして、おれはサッと右のカードを選んだ。なんてこった。ジョーカーだった。


「よし、勝った!」


遥香は嬉しそうに言いながら、座席のホルダーに置いてあったペットボトルのお茶を開け、ゴクゴクっと飲んでいく。


「なんかすごく絵になるね……」


そう言って、柳はパシャパシャと連続で写真を撮っていった。

遥香もまんざらでもないのか特に気にしていない様子だった。


「これ、売らないよな?」


「え?うーん、まぁそうだね。現像したら確実に売れるとは思うけど、買う側の目的がおかしいと思うから、これはさすがに現像しないかな」


「そっか……」


よかった。と心の中で安堵する。


「特別に一枚だけ現像して渡そうか……?」


すると、耳元で悪魔のささやきが聞こえてきた。


「え……いやいや……ははっ……」


軽く笑いながら思う。


どうしよう。


すっげぇ欲しいんだけど。

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