無言と理由
「よし、大丈夫そうだ。じゃあ行くか」
「うん」
玄関から少し顔を出し、通行人の中にうちの学校の生徒がいないことを確認した後、おれ達はそれぞれの荷物を持ち、揃って家を出た。
今は朝の9時。
集合場所の駅まで徒歩を含めて、40分ほどで着くので余裕をもっての出発である。
そして、2人並んで道を歩き、5分ほどで最寄りの駅に到着し、タイミングよく到着した電車に乗り込む。
しかし、その間、おれ達の間に会話はなかった。
「……」
電車にはうちの生徒もちらほらいるし、やっぱり遥香としては、おれと仲良くしてるのを見られたくないのだろうか……
文化祭の時とかは結構喋ってくれたけど、それとこれとは別ってことなのかな。
なんか、すげぇへこむな……
吊り革を持ち、隣に立つ遥香に悟られないようにおれが大きなため息を吐いていると、ちょんちょんとブレザーの袖を引っ張られた。
「ん……?」
もちろん、袖を引っ張ってきたのは遥香な訳でおれはそちらに目を向けると遥香がこちらをじっと見ていた。
「え、どうした……?」
ため息吐いてたのバレた……?
にしては、怒ってる感じでもないような……
緊張しながら、おれが遥香の次の言葉をジッと待っていると。
「ずっと無言だと暇なんだけど。なんか話してよ」
予想外の一言が遥香から飛び出した。
「え、あ、ごめん……」
おれは反射的に謝る。
もしかして、話しかけられるのを待ってた感じなのか?
なんだって、そんなことを……ってまぁこの際、それはどうでも良いか。
要は遥香がおれと話したいってことだよな。
なんかそれってすげぇ嬉しい。というか、おれって結構、単純なんだな。
そんなことを思いながら、おれはズボンのポケットに入れていた携帯を取り出し、操作する。そして画面を遥香に見せる。
「昨日調べてて発見したんだが、このスイーツ美味そうじゃない?食べに行きたいんだけどさ」
「っていきなりスイーツの話題って、あんたは女子か」
たまらず、苦笑する遥香。
「いやいや、これは男でも食いたくなるんだって」
そう言いながら、おれは先ほどとは打って変わって、饒舌になりながら、遥香と話すのだった。
結果、集合場所の駅までおれ達はずっと喋っていた。まぁ遥香が聞き役でおれが話してばっかだったんだけど。それでも遥香と話すのは楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます