お礼は難しい
放課後。
おれはクラスの連中より早く、教室を出ると一目散に中庭へと急いだ。混み合う前に自販機で飲み物を購入するためだ。
すぐに中庭へ到着し、急いだおかげで待つこともなく、すんなり飲み物を買えた。ちなみに遥香はコーヒー、穂花は紅茶にしてみた。
そしてベンチに座ると程なくして、2人が中庭へとやってきた。
「やっぱり、ここにいたのね」
「ああ、これを買いたくてな」
そう言って、ベンチから立ち上がり、買ったばかりの飲み物を近づいてきた2人に渡す。
「まさか、これがお礼ってこと?」
飲み物を受け取りながら、遥香は妖しい笑みを浮かべた。なんか意地の悪い顔してるな。まぁそういうところもかわいいんだけど……って何言ってんだ、おれ。
「まぁとりあえずのな。今度はもっとちゃんとしたのするからさ」
「私は京介君と同じ班になりたかったから、別にお礼なんていらないのに……」
遥香と同じように飲み物を受け取った穂花がそんな嬉しいことを言ってくれる。まじで健気すぎるだろ、この子。天使か。実は羽生えたりしてるだろ。
「なんかその言い方だと、私がたかってるみたいじゃん……」
穂花のその発言でばつが悪くなり、遥香はおれ達から目を逸らした。
「ああ、別にそういうつもりじゃ……!」
慌ててフォローする穂花。
「まぁとにかく2人ともありがとうな。担任にはこの3人が班ってことで伝えていいんだよな?」
おれは場の雰囲気がこれ以上、悪くならないように努めて大きな声を出してみる。何より、おれのせいで雰囲気が悪くなるのは見てられない。
「え、ああ……うん。それならホームルームが終わってすぐに私が言っといたから大丈夫」
「さすがだな」
「まぁ……ね」
少し得意げな表情の遥香。どうやら少しだけ気分が戻ってきたみたいだ。
「伝えた時はものすごい面食らってたけどね、先生。まぁ無理もないかもしれないけど」
「そりゃそうだろうな……」
おれが逆の立場なら絶対に驚くのが目に見えてる。こいつが!?こいつと!?みたいな。まぁ言ってて悲しくなってきたから、これ以上はやめて下さい。弱いものいじめ反対。
「それにしても修学旅行は京都かー。行ったことないんだよねぇ……」
「おれもだわ」
「あたしも」
3人揃ってベンチに座りながら、未知の土地に想像を膨らませる。
「そういや、2日目って自由行動なんだっけ」
「確かそうよ。1日目は決められたところを周るみたいだけど。そういえば、早めに決めてくれって先生が言ってたわね」
「早めにか。とりあえず各々行きたいところを探してみて、明日意見を出し合おう」
「「了解」」
2人揃って返事を返してくれたところで、おれは先程買ったコーヒーのプルタブを開けるとようやく口をつけ始めた。
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