終わりの始まり
その日の夜。
晩御飯の後、食器類の片付けを早々に終わらせたおれは部屋で机の上にノートパソコンを広げ、操作していた。
もちろん、修学旅行でどこを周るべきか探していたのである。
ちなみに修学旅行は京都の嵐山に行くことになっている。まぁこういうところって修学旅行の定番だよね。
しかし、色々あるんだな、名所が。行ったことないから出来る限り周ってみたいが……
と、そんなことを思っていた時、部屋のドアがノックされた。
「入っていい?」
ノックをしてきたのはもちろん遥香である。
「ああ、いいぞ」
おれが二つ返事でそう返すと、部屋のドアが開いた。
そこには、いつの間にか風呂に入っていたようで寝巻き姿で片手にスマホを持っている遥香がいた。
「もしかして、あんたも探してた感じ?」
おれがノートパソコンを触っているのを見て、そう尋ねてくる。
「ああ、どうやらそっちもみたいだな」
「うん。見てるうちに色々行きたいところあってさ……それで相談したくて」
言いながら遥香は、ベッドの上に腰を下ろした。
「実はおれもだよ。そういや、1日目ってどこに行くんだっけ?」
ホームルームで説明されたような気もするが、あまり覚えていない。その原因は遥香と穂花と同じ班になれることに安堵していたからだと思う。何より、修学旅行に行けることが。
「野宮神社ってところに行くみたいよ。1日目は時間がないから、そこにしか行かないみたい」
「そうなのか……」
野宮神社か。後でどんな神社なのか少し調べておくか。
「それで、あんたは2日目どこに行きたいの?」
「まぁまずは渡月橋を見てみたいよな。テレビとかでもよく紹介されるから、せっかくだし見てみたい。それに秋だから紅葉が綺麗だと思うし」
「へぇ、実はあたしも見てみたいって思ってたのよ」
自分と同じ考えだったからか遥香は少し嬉しそうに微笑む。その表情がやけにかわいくて、おれは直視できず、隠すようにノートパソコンに視線を逸らす。
「あ、あとはトロッコ列車に乗ってみたいな。ここも紅葉が綺麗に見れるみたいだし」
「なんかやけにロマンチストね。あんた、そんなキャラだっけ?」
「べ、別にいいだろ……せっかくの修学旅行だから楽しみたいんだよ」
「まぁその気持ちは分からなくもないけどね……って今気づいたんだけど、あたし達が意見まとめてたら穂花、変に思わない?各々調べてくるって言ったのに次の日、2人だけ意見揃えてくるなんて……」
「あ、確かに言われてみれば……」
しかも、穂花にはまだおれ達が同じ家に住んでることは言っていないから、それで変な詮索をされるかもしれないし……
「やっぱり、それぞれ調べて明日話し合おうか……」
「うん、そうしましょ……」
そう言って、遥香はベットから立ち上がり、ゆっくり部屋から出て行った。
なんか少ししんみりした空気になっちゃったな……まぁ仕方ない。
さて、おれはもう少し京都について調べてみるか。そして再びノートパソコンを触る。
こうして、その日の夜は過ぎていくのだった。
そして次の日の放課後。
おれ、遥香、穂花の3人は連れ立って図書室へ向かい、奥にテーブルの一角に座り、修学旅行2日目にどこに行くか話し合うことにした。
図書室にはおれ達と同じようなグループが既にいくつかおり、そこかしこで似たような話し声が聞こえてくる。
そんな中、おれ達もお互い行きたいところを順番に上げていったが、これがなんと全員同じ場所だったのだ。
とんでもないシンクロ率におれ達は顔を見合わせ、笑い合うしかなかった。
その後は図書室にある京都の歴史の資料や何故か備えてあった旅行雑誌を見ながら、色々と話し合っていく。
修学旅行なんて小学校以来なので、正直、おれはかなりテンションが上がっていた。中学の時の悪しき記憶など、どこへやら。
昨日はノートパソコンで結局、夜遅くまで調べ物をしてしまったくらいだ。
あまりの熱弁ぶりに遥香も穂花も少し引いていたみたいだが、そんなことはどうでもよかった。修学旅行に行くことができる。
おれにとっては、それが何より重要なのだ。
修学旅行は約1カ月後なのだが、今からとても楽しみである。ワクワクが止まらない。
しかし、この修学旅行がきっかけでおれ達、3人の関係が大きく動き出すことになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
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