10章
親父登場
夏休みも早いもので、8月に入った。
出された宿題も全て終わり、おれは悠々自適な毎日を過ごしていた。個人的には去年の夏休みよりも満足感がある。もしかしたら、それはぼっちで過ごすことが減った事が理由なのかもしれない。
そんなある日のこと。
「ん?」
昼間のうちに食材の買い物を済ませ、暑さに顔を歪ませながら帰宅すると、玄関に見たことのないビジネスシューズが丁寧な揃えてあった。
昌樹さんのではないよな?
そもそも、仕事だからこの時間に帰ってくるはずないし……
おれは疑問を抱きながら、ゆっくりとリビングのドアを開ける。
「遅いぞ、ヘタレバカ息子よ」
そこには、イスに座り、いきなり罵声を浴びせてくるスーツ姿の親父がいた。クーラーがガンガンに効いているので、恐らく結構前から、ここにいたんだろう。
その証拠にテーブルの上には大量のビールの空き缶とつまみの袋が散乱している。いくら、仲が良い親友の家だからって人の家なんだし、クーラー勝手につけんなよ……
そして、もっと綺麗に使えよ……
「っていうか、久々に会う息子との会話がそれってどうなんだよ……」
こまめに連絡はしていたが、約1年振りに会うのに、開口一番が罵倒って……
「何言ってんだ。親子の会話なんてこんなもんだろう」
いや、絶対違うと思う……
おれは心の中で突っ込みながら、買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れていく。
「それより、どうやって家の中に入ったんだよ?」
「そんなの鍵を使ったに決まってるだろう」
言って、親父はズボンのポケットから鍵を取り出す。
「昌樹から合鍵をあらかじめもらっていたんだよ」
「なるほどな……ってか、帰ってくるならくるで連絡くれよ」
「まぁお前を驚かせてやろうと思ってな」
ははっと豪快に笑う親父。
変わってないこの笑顔。この笑顔を見ると、いつも安心する。
「仕事がひと段落ついてな。休暇を取ったらどうだって言われて、それで久しぶりに日本に帰ってきたんだ」
「そっか。結構長期なのか?」
おれは親父と対面になるようにテーブルイスに座り、買ってきたペットボトルのお茶を開け、一口飲む。
「今日からちょうど2週間だな」
「その間はここで一緒に過ごすのか?」
「いや、オレは近くのホテルに泊まるよ。ここはお前と遥香ちゃんの愛の巣になってるって昌樹が言ってたからな。邪魔しちゃいかんと思って」
「そんな仲じゃねーから!」
愛の巣ってなんじゃそれ!
思わず、イスから立ち上がってしまう。
「おお、ムキになった。こりゃ結構進んでると見たぞ」
ケラケラとからかうように笑う親父。
あーもう……
久しぶりに会ったってのに、なんも変わってないな……
まぁそれが嬉しくもあるんだけどさ。
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