緊張
時刻は夕方の5時前。
といっても夏なので、まだまだ日差しがきつい。そのせいで、歩いているだけで汗が全身から噴き出してくる。そして、何より汗のせいで服が背中に張り付くのが、それが一番気持ち悪い。
「あっつい……」
「まぁ夏だからな」
「そういうこと言ってんじゃないんだけどさ……」
隣を歩きながら、ハンカチで汗を拭いつつ、恨めしげに遥香はこちらを見る。ずっとクーラーの効いてた所にいたから、外の暑さにすっかりやられてしまったようだ。かくいうおれも冷えた場所に長時間いたので、この暑さは中々もってキツイ。
「それにしても、今日はやたらと浴衣を着た人がいるな」
さっきからすれ違う度に浴衣を着ている人が目に入る。おれ達の前を歩いている人達も浴衣を着ていた。
「そういえばそうね……って確か今日、隣町で花火大会があったはずよ」
「ああ。なるほどな」
「うん……」
どことなく、何か言いたそうな遥香の横顔。これは間違いないな……
ふぅ。と息を吐いた後、おれはゆっくりと口を開いた。
「行ってみるか……?」
「え……?」
「花火大会。せっかくだからさ」
思い切っていってみたが、これで断られたら相当ダメージを食らうな……
果たしてどうなるか……
一種の覚悟を決めながら、おれは遥香の次の言葉を待つ。
「そ、そうね……行ってみましょうか……」
ぎこちない返事をしつつも、どこか嬉しそうな表情を浮かべている遥香。
それを見てると、安心と同時に何故かこっちも急に緊張してきてしまう。
思えば、これってデートになるんだよな……
2人で出かけたことは何度もあるのに、何故今日に限ってこんなに緊張してしまうのだろうか。
おれは鼓動を早めた心臓をなるべく落ち着けさせるように努めながら、電車に乗るために方向を変え、駅へと向かった。
混み合っている電車に5分ほど乗り、程なくして隣町に降り立つ。
改札を出ると、電車に乗っていたほとんどの人が同じ方向に進んでいくのでおれ達もその流れに乗り、道を歩いていく。
「おお……」
「結構賑わってるわね」
少し歩いた先で目の前に広がる声におれ達は声を上げた。
河川敷には屋台がいくつもあり、非常に沢山の人がそこらじゅうにいた。その光景を見ていると、どこかワクワクしてきてしまう。
「さすがにすごい人だな」
「まぁ夏休みだし、花火大会ってなれば、みんな来るだろうしね」
「まぁそうだな……って、ちょっと思ったんだが、遥香は誰かから一緒に行こうとかって誘われなかったのか?」
学校一の有名人の遥香なら誰かから誘いがあっても変じゃない。というか誘われない方が不自然だと思うが。
「え……?いや……それが誘われなかったのよ……なんでかしらね」
ははは。と不自然な笑みを浮かべる遥香。
この反応、もしかして、触れられたくないところだったのか……?
「あ、いや、なんだ。その悪い……」
遥香だって誘われない時くらいあるよな。
こんなおれならそんなことを思われるのも心外かもしれないが。
「って、ちょっと同情しないでくれる?ってか……なんで気づかないかな……?」
「ん?なんか言ったか?」
「な、なんでもない!!」
大声でそう叫んだ後、遥香はずんずんと道を進んでいった。
な、なんだよ、一体。
そんなに触れられたくない話だったのか?
うーん、仕方ない。この後のなんか奢るか……
おれは首を傾げながら、先を歩く遥香の後に続いていくのだった。
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