心のざわめき
テストも無事終わり、いよいよ待ちに待った夏休み。宿題がこれまたドッサリ出されたが、それを抜きにしても心待ちにしていた夏休み。おれは心の中で夏休みを謳歌することを決意していた。何故なら、今年は海に行き、山にキャンプに行き、花火大会にも行く。全くどれもこれも待ち遠しいぜ!
って行くわけないよね。だってワタシ、引きこもりですもん。
海とか小さい頃に遥香達、門川家と行ったきり、行ってないわ。キャンプってガラでもないしな。花火大会はまぁ……機会があれば行くか。ってバカなこと考えてないで、宿題をさっさと終わらせよう。
今は夏休み5日目の朝。時刻は10時を少し過ぎたところ。おれは部屋の机の前に座り、出された宿題を次々と片付けていた。
しかし、これまたドッサリ出されたもんだ。昨日から宿題に手をつけ始めたのだが、簡単には終わらない量だった。
「はぁ……」
思わず、天を仰ぎながら、ため息が出てしまう。それも仕方ない。既に宿題を始めてから2時間近くが経過していた。
さすがに、そろそろキツくなってきたな……
気分転換にコーヒーでも飲んでくるか……
おれはイスから立ち上がり、部屋を出て、階段を降り、リビングへと入る。
リビングには誰もおらず、しんと静まり返っていた。
昌樹さん達が仕事で家にいないのは分かるけど、遥香もいないのか。いつのまにか出かけていたようだ。
そういや、ここのところ、毎日朝から出かけてるな。そして決まって夕方頃には帰ってくる。
もしかして、特定の人物と遊んでるのかな……
まぁ別に誰と遊ぼうが構わないけどな。
そう思ってるはずなのに、どこか落ち着かないのはなんでだろうか。
おれはどこかモヤモヤとした頭を抱えながら、マグカップにコーヒーを淹れた後、部屋に戻るのだった。
◆
「これぐらいにしとくか……」
問題の答えを書き終えたノートを閉じ、イスに座りながら、ググッと両手を上げ、背中を大きく伸ばす。携帯で時刻を確認すると、今は昼の12時過ぎだった。
なんだかんだで4時間近くやってたのか。
我ながらよくやったなと思う。おかげでイスに座り過ぎて、尻が痛い。その代わりに明日少しやれば、宿題は終わるところまではきていた。
「そろそろ昼ご飯食べるか……」
朝からコーヒーとパンしか食べておらず、胃が空腹を訴えていた。
おれは誰に話すでもなく、独り言を呟きながら、部屋を出て、階段を降り、リビングへと向かう。
夏だし、簡単にそうめんでも作るか。
遥香にもそうめんで我慢してもらおうかな。
そんなことを思いつつ、台所のケトルでお湯を沸かしながら、リモコンでテレビのスイッチを入れると、とある映画のCMが流れた。
「……」
そのCMを見た瞬間、衝撃のあまり、おれは手に持っていたそうめんの束を床に落としてしまった。
うそ……だろ……
そういや、夏公開だって言ってたっけ……
それは、おれがかねてより観たいと思っていた海外の人気アクション映画だった。
慌てて携帯で確認すると、どうやら先週の土曜日から上映されているようだった。
夏休みのワクワクから、日付なんて完全に忘れてしまっていた。
おれはそのまま携帯で、ショッピングモールの中に入っている映画館の座席状況を調べると、一番近い時間帯で運良く空席があったので、すぐさま予約をした。
「よしよし……!」
おれはたまらず、グッと拳を握る。
上映は今から1時間後。
普通に歩いてでも間に合う。となると、昼ご飯は鑑賞中に適当に何か食べるとするか。
そうして、おれは沸かしていたお湯のスイッチを止め、床に散乱したそうめんの束を片付けると、急いで身支度を整え、家を出て行った。
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