それぞれの想い

「もう大丈夫そうだな」


「これも京介君のおかげだよ。本当にありがとう」


「いやいや、穂花の飲み込みが早いだけだって」


金曜日。今は夜の7時10分。すっかり恒例となった穂花の家での勉強会だが、こうして会話できるほどに余裕が生まれてきた。これも穂花がおれの教えたことをすぐに理解してくれたおかげである。さっき、簡単な小テストを作ってみたが、これが驚きの満点だったのだ。


「って、あ、もうこんな時間。今日は2人とも早く帰ってくるんだった……」


慌てたように部屋にかけてある時計を確認する穂花。


「あ、そうなのか?じゃあ今日はこの辺にしとくか」


「うん。ごめんね」


「それじゃあ明日は……」


何時に来ようか、そう言おうとした時。


「あ、土日は大丈夫だよ!1人でなんとかできそうだし」


食い気味に穂花が口を開いた。

やけに声量が大きい気がして、おれは少し驚いてしまう。


「そ、そうか?」


「う、うん!頼りっぱなしも悪いし、それにこれだとフェアじゃないしね……」


「フェア?」


「あ、いや、その……何でもない!とにかく大丈夫だから!」


なんかグイグイくるな……

この状況でやっぱり明日も来るよ。とは言いづらいし、何より本人が大丈夫って言ってるなら、それでいいか。


「わかった。それじゃあ月曜、学校でな」


「うん。気をつけてね」


ドアが閉まる隙間から手を振る穂花を振り向きざまにチラッと見た後、おれは視線を前に戻し、エレベーターの方へと向かった」


「本当はずっと一緒にいてほしいんだけどね……でも私だけこれじゃ遥香に悪いもん……」


「ん……?」


何か聞こえた気がするが、気のせいだよな。

おれは特に気にせず、道を歩き、家へと向かった。

そういえば、今日は遥香からメール来ないな。というのも勉強会をし始めてから毎日デザートの催促メールが来るのだ。その割にすぐに食べるわけでもなく、翌日の朝に食べることもあったりするので、よくわからない。


今日はいつもより早く終わったから、それでメールが来ないのもしれないな。

まぁ何か後で言われても困るし、適当に買って帰るか。

というわけで、おれは近くのコンビニでいくつかデザートを購入した後、帰宅することにした。


「ただいまー」


おれが玄関に入り、靴を脱いでいるとバタバタと騒がしい足音が奥から聞こえてきた。


「もう帰ってきたの?!」


何やら慌てた様子の遥香。これはやはりデザートを頼めなかったのが原因か。というか口の周り、ポテチの食べカスが沢山付いてるんだが。取りなさい、早く。綺麗な顔が台無しよ。


「今日はご両親早く帰ってくるんだってさ。それにもう穂花に教えること特になかったし、土日もこなくていいって」


そう言って、手に持っていたコンビニのビニール袋を渡す。


「え、そう……なんだ。ってこれ何よ?」


「コンビニでいくつかデザート買ってきたから良かったら食べてくれ」


「え……?ああ、ありがと……」


さっきとは打って変わって、やけに大人しい遥香。やはりデザート買ってきといて正解だったか。


「今日は先に風呂入るわ。なんかいつも以上に汗がひどくて」


「あ、うん。わかった……」


そう言ってから、おれは2階の部屋に着替えを取りに向かった。

さて土日、暇になってしまったが、どうするかな。まぁ外にいるとリア充も多いだろうし、安定の引きこもりでいいか。

そんなことを考えながら、その日の夜は過ぎていった。


その後、週明けのテストで穂花は無事平均点以上の点数を獲得したそうだ。

おれも教えた甲斐があったというもので、すごく喜ばしかった。

ただ、何故かいつもは仲が良いはずの穂花と遥香がどことなくぎこちない様子だったので、その事が少し心に引っかかるのだった。

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