微笑み

夜の7時50分過ぎ。


「それじゃあ、今日はありがとうね」


「ああ、明日もまた同じくらいの時間にくるから」


「うん。よろしくお願いします」


じゃあと言った感じでお互い手を振りながら、おれは穂花の家から出て行った。


なんだかんだであっという間に時間が過ぎていった。特に雑談をしたわけでもなく、本当に真面目に勉強しかしなかった。まぁ休憩と称して5分くらい休んだけど、その時はお互い無言だった。


さて、早く帰るか。

人に勉強教えるなんてやったことないから、なんか精神的に疲れた気がする。

今日はゆっくり風呂に入って、身体を休めよう。


そうして、おれが家までの道を歩こうとした時、ズボンのポケットに入れていた携帯が震えた。


「ん?」


なんだと思い、ポケットから携帯を取り出すと遥香からメールがきていた。そこには短文で「シュークリームが食べたい」と書かれていた。


デザートの催促か……

っていうか、晩御飯食べてからかなり時間が経っているような気もするけど……

まぁ食べたいといっているなら仕方ない。

おれは携帯をポケットにしまうと、近くのコンビニへと向かい、素早くリクエストのシュークリームを買うと駆け足で家まで走っていった。


そして、ものの5分程度で家へと到着。

玄関を開け、そのままリビングへと進む。

そこには部屋着姿の遥香がソファに座って、テレビを見ていた。


「ただいま……」


「おかえり。買ってきてくれた?」


「あ、ああ、これな」


そう言って、コンビニの袋からシュークリームを取り出し、遥香に渡す。


「ん、ありがと。楽しかった?」


「いや、真面目に勉強してたからな。楽しいとかはなかったよ」


おれは肩からかけていたカバンを床に下ろし、冷蔵庫からペッドボトルのお茶を取り出す。


「そっか……」


シュークリームを掴んだまま、小さく呟いた後、遥香はそのまま動かなかった。


「それ、食べないのか?」


「あ、うん。お風呂上がりに食べようかな……」


遥香はソファから立ち上がると冷蔵庫にシュークリームを入れて、そのままリビングからフラフラと出ていった。


「どうしたんだ、あいつ……」


でもその割にはすれ違った時、少し笑ってたような……

笑うというよりは微笑んでたっていうか、なんか安心したって感じかな……?

何に安心したのか、よくわからないが……

まぁ何にせよ、機嫌を損ねなくてよかった。


おれはホッと一安心しつつ、グビッとペットボトルのお茶を飲むと遅めの晩御飯を食べ始めた。

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