動きだすキモチ

夜の6時過ぎ。

おれはカバンに筆記用具と教科書とノートを入れ、肩にかけると、部屋を出た。


これから穂花の家で1週間限定の家庭教師を行うのだ。もちろん、泊まり込みというわけではなく、試験前で部活動も休みになるので、放課後の空き時間を使って。


しかし、穂花のご両親がそれを許すかわからないというわけで、ご両親が帰ってくるまで内緒でやるということになっている。

それにしても勉強のためとはいえ、2人きりってわけか……

なんか妙に緊張してしまう。

昔から2人で遊ぶことはあったのに、今更意識してしまう。


少しばかり、そわそわしながら階段を降りたところで遥香が壁にもたれかかりながら、玄関にいた。どうやら見送ってくれるようだ。


「じゃあ、今から行ってくる。晩御飯作ってあるから食べておけよ」


「うん。あんたは穂花に変な事しないようにね」


「し、しないっての……」


「どうだかなー。だって、密室に男女が2人きりなんて何かない方がおかしいと思うけど」


なんだ、やけに突っかかってくるな……


「穂花からしたら今を乗り越えないといけない一大事なんだから、わざわざ台無しになんかしないって」


「ま、まぁそうよね……」


「それにおれと穂花はそういう仲じゃないからな」


一応、告白されてはいるけど……と心の中で付け加えておく。しかし、これを言ったら火に油を注ぐ事態になりかねないので、黙っておく。


「そう……よね。まだよね……」


「ん?何か言ったか?」


「いや!なんでもないから!それより早く行きなさいよ。時間がないんだから」


「お前が話しかけてきたんだろ……まぁいいや。それじゃ、行ってきます。8時過ぎには帰ってくるから」


そして、おれは足早に家を出ていった。


「まだ……よね。でも、早くしないと……」

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