カップル
「いらっしゃいませー!!」
店に入るなり、店員さんの元気な声が店内に響き渡る。
程よい時間になったので、おれ達は目当ての店に入店した。内装はかなりファンシーな感じなのに、なんか店員さんは体育会系な感じだな。すごいギャップを感じる。
そして、やはりというか予想通り、店内は大混雑しており、やや経ってからおれ達の元に男性の店員さんが駆け寄ってきた。
そして、木ノ下は手短に取材に来たことを伝える。
きちんと話は通っていたようで、すぐにご案内します。と店員さんは言ってくれたのだが、何故か、しきりにおれの方をチラチラと見ており、どうしたのかと思っていたら、その男性の店員さんは別の店員さんに話しかけ、何やら相談しているようだった。
すぐにその相談は終わったようで、おれ達はすぐに席へと案内されたのだが。
「ねぇ、来ヶ谷君……」
「待て、言うな。言いたいことはわかってる……」
席に座った途端、口を開いた木ノ下におれは手で待ったをかける。
なるほど、さっき、おれを見ていたのはこういうことだったのか……
というか、余計な気を使わなくていいんだって……!
おれ達、そんな関係じゃないし……!
たまらず、テーブルの下で拳を握ってしまう。
おれ達が案内された周りには、ケーキ以上に甘ったるい空気を発生させているリア充、つまり、カップルばかり。なんとこの店にはカップルしか座れないカップルシートなるものが存在していたのだ。
「変な気、使わなくていいのにね……」
「本当だよ……」
だが、気恥ずかしくて、お互い、それ以上言葉が出てこない。
それになんか全否定するのは申し訳ないというかなんというか……
とりあえず、こうなった以上、早めに取材を終わらせるしかないか……
おれは心の中で少しだけ覚悟を決めた。
「まぁもう仕方ないし、とにかく食べてみないか?」
「そ、そうだね。そうしよう」
席に案内されてから既に5分が経過。おれ達は、ようやく流れてくるケーキに手をつけ始めた。
◆
「これ、美味いな……」
口に運んだ瞬間、広がる甘みにたまらず感動し、小さく声を上げてしまう。
「でしょ!?こっちも美味しいよ?」
「どれどれ……」
木ノ下が差し出してくれた皿に乗ったチョコケーキにフォークを刺し、少し頂く。
「うん、確かに」
もぐもぐと噛み締めながら、頷く。
ここに来てからどれぐらい経ったのか。
いつの間にか2人揃ってケーキを食べるのに夢中になっていた。周りのことなんてもう完全に忘れてしまっている。
というのも、1つあたりのケーキが少し小さめに作られているので、簡単に食べることができるし、種類も10もあり、食べ飽きることもない。
何より、甘さが個人的にはちょうど良く、そのせいで既に8個も完食したところだった。
「じゃあ、そろそろやろうかな……」
おれが満足感に浸っていると。木ノ下はポーチの中をゴソゴソと漁ると、デジカメを取り出し、ケーキの写真を撮り始めた。
「あ、それじゃあせっかくだから、来ヶ谷君。このケーキを食べた感想を聞かせてよ」
すると突然、木ノ下は写真を撮るのをやめて、ショートケーキの皿をおれに渡してきた。
「か、感想?」
随分、急な無茶振りをするな、突然……
こういった時の感想なんて、うめー。とかおいしいー。とかしか出てこないぞ。バカみたいに聞こえるかもしれないが、いざやってみたら大体こうなるから、皆、覚えておけよ。ここ、テストに出るから。
「やっぱり生の声を聞いて、書いた方がお店のためにもなるかなと思ってさ」
「確かにそうだろうけど、おれ、こういうの向いてないし……」
「じゃあ、男性にもぴったりな甘さでオススメ!とか書こうかな」
「ああ、それいいんじゃないか?」
「まぁ本当は感想がほしかったところだけど……」
チラッとおれの顔を見てくる木ノ下。
やめて、その顔。なんかすごい罪悪感あるから。
「つ、次、こういう時が来た時は応えられるように努力しておくよ」
とりあえず芸能人が出してるグルメ本でも買ってみるかな。でも、美味しいものを食べた時ってやっぱり美味しいが一番の誉め言葉だと思うけどな。
「ふふ、その時はよろしくね」
おれの様子に木ノ下は可愛らしい笑みを浮かべた。
その笑みにおれは少しだけドキッとした。
しかし、木ノ下にそれを悟られたくなくて、隠すようにケーキを食べ進めていった。
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