猫好きってやつは

時刻は午前10時半を少し過ぎたところ。

おれ達はショッピングモールへと辿り着いたのだが。


「すごい人だな……」


「うん、ほんと……」


ショッピングモールに入った瞬間から視界に広がる大勢の人の波に、たまらず2人揃って呆気にとられてしまう。


「久々に晴れたし、それに今日は日曜だから余計に混んでるのかな……」


「それにしたって、まだ午前中なのに、この数は多すぎだろ……」


この様子じゃ、オープンしたての店なんてあっという間に混みそうだな……

となると、これは早めに行くのがベストかな。


「時間かなり早いけど、もう行っといた方がいいんじゃないのか?この様子だと昼時に行ったりしたら、大変なことになってそうだぞ」


「あ、うん。それなら大丈夫。取材するってことで席は確保してもらってるから」


そう言って、木ノ下はポーチの中に入っていた携帯を取り出し、いくつか操作した後、画面をおれに見せてくれた。

そこにはレストランとのやりとりが書かれており、昼の1時から取材ということで話は通っているそうだ。


「これは相当有難いな」


「でしょ。だから時間までブラブラしようよ」


「そうだな」


おれは頷くと木ノ下と共にショッピングモールの中を散策することにした。


しかし、散策にするに辺り、重要な問題が一つあった。

木ノ下とどこに行けば、つまりどういう店に行けばいいんだ……?


洋服屋に行ったところで、おれはファッションセンスがないし、大して会話も盛り上がらないだろう。

頼みのゲーセンという手段もあるが、果たして木ノ下が乗り気になってくれるかどうか……


おれが頭を悩ませながら歩いていると、隣にいたはずの木ノ下がいなくなっていたので、おれは慌てて振り返る。


あれ、どこいった……?


辺りをキョロキョロ見回すと、少し離れたところにいるのが見えた。どうやら何かを物色しているようだ。おれは駆け足で木ノ下の元に近寄る。


「かわいい……」


手に取ったぬいぐるみキーチェーンをまじまじと見つめながら、木ノ下は目を輝かせながら小さく呟く。


「こういうのが好きなのか」


「うん……って来ヶ谷君!?」


隣まで近づいていた事に気付いていなかったようで、大声を上げながら、仰け反る。


「そんなに驚くなよ……」


ちょっとびっくりしたわ。おれってそんなに存在ないのかな……

まぁ私、ぼっちだからある意味、空気的なもんだけど……ふふふ……


「あ、ご、ごめんなさい……これが余りにもかわいくて……」


そう言って、木ノ下は手に持っていたものを見せてきた。


「こいつはぶちゃカワだな」


木ノ下が持っていたのは最近、ネットやテレビで話題のぶちゃカワ猫のキーホルダーだった。開いてるのか、閉じてるのかわからない目に横棒を描いたような口、その割に毛並みはモフモフときている。アンバランス半端ない。

これは、どこぞのモデルが考案したらしくて、ネットから人気に火がつき、今は品切れの物もあるそうだ。

そういや、グッズの専門店があるとかテレビで聞いたことがあったけど、まさかここにあったとはな。新たな発見だ。

今度、遥香と来てみるか。

猫好きだし、喜ぶかな。あいつ。

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