サイコパス

翌日の朝9時半。

おれは非常に居心地の悪い中、支度をしていた。


「……」


その理由というのが、ものすごく不機嫌な様子でソファに座っている遥香がいるからだ。

しかし、不機嫌なのは今に始まったことじゃない。昨日からずっとだ。

正確に言えば、おれが木ノ下に誘われたことを伝えてからだ。


あの後、木ノ下はおれの携帯にメールを送ってきた。そこには今日の待ち合わせ場所と時間が書かれてあったのだが、おれのメルアドは恐らく、遥香から聞いたのだと思われる。その事も遥香を不機嫌にさせた要因の一つなのだろうけど、それが何故、不機嫌になるのかよくわからない。


「そんなにむすっとしちゃって、かわいい顔が台無しよ?」


すると、洗濯物をベランダに干し終えた京香さんがリビングに入って来るなり、見かねた様子で遥香に話しかけ、頬をプニプニと叩いている。

京香さん、なんて恐れ多いことを……!

まさに親娘だからこそできる離れ業だな。


ちなみに昌樹さんはこの場にはいない。

昨日飲みまくった結果、京香さんに連れられ、夜遅くに帰ってきたと思ったら、二日酔いになってしまい、今は部屋で寝ているらしい。

かなりの酒豪のはずなので、そんな人が二日酔いになるなんて一体どんな量を飲んだのか想像がつかない。そして、その原因がおれにあるのかもしれないので、何故か少し罪悪感を覚えてしまう。


「別に。かわいくないし」


しかし、遥香の不機嫌は変わらない。片手で頬を叩いている京香さんの手を払いのける。


「でも、大丈夫よ。遥香」


そう言って、京香さんは遥香の耳元に近寄った。


「これを……こうして……こうすれば……」


「なるほど……!」


京香さんが遥香の耳元で何かを囁いた瞬間、遥香はカッと目を見開いた。


なんか昨日も似たようなことがあったような……

デジャブ感半端ないんだけど。

というか、京香さん、2人に一体、何を吹き込んでいるんだよ……


「あの、じゃあ行ってきます……」


おれはテーブルに置いてあったマグカップに入ったコーヒーを一気飲みすると、足早にリビングから出て行った。

家を出るには速いが、こういう時は逃げるに限る……


「ふふ……今から楽しみね……クフフ……」


しかし、リビングを出る際の遥香の奇妙な笑い声が耳から離れなかった。


怖すぎだろ……

とんだサイコパスもいたもんだよ……

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