思わぬ展開
「はぁ、美味しかった」
遥香がカップ麺の容器から口を離す。
きれいにスープまで完食している。
っていうか、おれが食べようと思ってたカップ麺なんだけど……
まぁ後で別のを作ればいいし、これは相談料ってことにしておこう。
それに今はあんまり食欲ないし。
「まさか休日の学校でそんなことがあったなんてね。まぁそれであんたは落ち込んでるってわけか」
「落ち込んでるわけではないんだけど……」
「ふふ、あんたってさ、結構鈍感な所あるよね」
遥香はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
「な、なんだよ、いきなり」
「つまり、あんたは芽衣に嫉妬してんのよ」
「嫉妬?」
おれが?木ノ下に?
意外な、というか想定もしてなかった言葉にたまらず、驚いてしまう。
「そう。まぁ芽衣ってさ、簡単に言うとあんたとは正反対な人間でしょ?それであんたの心は無意識に嫉妬してたってわけ」
「……」
「それに芽衣はあんたが思うような人間じゃないわよ?」
「どういう意味だ?」
「芽衣のお父さんってね、自衛隊の隊員だったのよ」
「だった……?」
そこで疑問形になったので、おれはそれが引っかかった。
「うん。4年前に九州地方で発生した記録的な豪雨があったことは覚えてる?」
「あ、ああ。確か、地盤沈下とか土砂崩れで亡くなった人も沢山いたって」
「そう。それにね、芽衣のお父さんは、そこに派遣されたそうなの」
「って、まさか……」
「そう。そのまさかなの。救助活動中に運悪く、土砂崩れに巻き込まれてしまったらしくて、他の隊員の人に救助された時はもう亡くなっていたそうよ」
「そんなことが……」
あのいつも明るい木ノ下が、そんな過去を抱えていたなんて。
しかも、4年前はおれ達が中学生になったばかりの時だ。精神的にもまだ未熟な部分も多い。親の死を乗り越えるのはそう簡単じゃないだろう。いや、そんなの大人だって、難しいはずだ。
「芽衣のお父さんは口癖のようにいつも言っていたそうよ。人の役に立つことをしろ。人のためになることをしろ。それが自分のためにもなる。って」
「……」
「芽衣はそんなお父さんの口癖を精一杯、実践してたのよ。それを良く思わない人がいても必死に気にしないようにして」
「……」
おれは俯きながら、ぐっと拳を握る。
おれはなんて酷いことを言ってしまったんだ。
木ノ下の事情も知らずに無意識に嫉妬するばかりか、傷つけてしまった。
自分で自分が許せない。
いや、自分に苛立つより前に木ノ下に謝ろう。きちんと。言葉にして。
「なぁ……」
おれが顔を上げると同時に遥香はおれの目の前に携帯の画面を見せてきた。
「謝りたいんでしょ?芽衣に。その内、繋がるはずよ。話し終わったら部屋に持ってきてね」
そう言って、遥香はリビングから出て行き、2階に上がっていった。
「ありがとうな……」
おれは小さく呟くと携帯に耳を当てた。
「あ、もしもし?どうしたの、遥香?」
「あ、は……あ、門川じゃなくて、おれなんだ……」
「え、来ヶ谷君……?」
電話口の木ノ下はかなり驚いているようだった。そりゃそうだろうな。それに、つい数時間前、あんなことがあったわけだし……
「あ、その、木ノ下……」
「う、うん。ど、どうしたの……?」
「さっきは本当にごめん!」
おれは大きく叫びながら、頭を下げた。
電話だからおれの姿が見えないのはわかっている。だが、そんなことは関係ない。今は頭を下げなければいけないんだ。
「え、っと……」
「さっき、角川から色々聞いたんだ。木ノ下のその性格というか、昔あったことを……」
「あ、そうなんだ……はは、なんだ、遥香。勝手に私のこと話してさぁ」
木ノ下が無理に笑っているのは電話口でもよくわかった。
「そうとは知らずにひどいことを言って本当に悪かった……」
「い、いいよ、いいよ。私が勝手にやってきたことだし……それに謝ってくれるなんて思っても見なかったから、なんか嬉しいよ……」
「……」
嬉しいか。この状況でそんなことを思える木ノ下は本当にすごいな。
「でも、私も少し傷ついたし、来ヶ谷君には少し罪滅ぼししてもらおっかな」
「罪滅ぼし……まぁ、おれに出来ることなら全力でするよ……」
さて一体、何を言われるのやら……
相手が木ノ下なので、想像がつかないけれど……
「本当?良かった!それじゃ明日、暇?」
「えっ?」
罪滅ぼしってまさかのお誘いなの……?
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