予期せぬ再会

「こんなとこで会うなんてびっくりしたよ。もしかして、今は陸上部とか?」


「いや、今日は頼まれて、たまたま来ただけなんだよ」


「そうなんだ。それよりもごめんね。私まで世話になっちゃって」


「別にいいよ」


本当は嫌だけどな。

おれは心の中で毒づいた。


今は昼の12時過ぎ。

おれは体力測定で使った器具の片付けをしている。正直、1人で片付けられる量であったが、何故かこうして木ノ下も手伝ってくれている。

木ノ下は先週怪我が治り、退院したそうだが、現在、木ノ下の通う高校の陸上部は試験期間で部活動は停止となっており、どこかで活動できる所はないかと探している矢先に顧問の先生に言われ、うちに来たとのことだった。

何でおれの高校なんだよ……と思ったが、両校の先生同士が旧知の仲だそうなので、それはもう仕方ないことだった。


今はこうして片付けを手伝ってくれているが、それは親切心なのか、それとも八方美人だから周りに媚びを売っているのか、わからない。


「来ヶ谷君ってさ、多分、私のこと嫌いだよね」


すると突然、後ろから思ってもみなかった木ノ下の言葉に一瞬、心臓がドキッと大きくはねた。


「いや、そんなことないって……」


心の内を諭されまいと顔には出さないようにしながら、器具を倉庫に戻しながら、努めて冷静に返す。


「はは。優しいね。でも私、わかるんだ。こういう性格だから、良く思ってない人もいるって……」


沈んだ声でそう言いながら、おれの後に続くように木ノ下も倉庫に入ってきた。まさかの2人っきりかよ……

でもおかげで誰かに話を聞かれる心配はないか……

なら、この際、思い切って聞いてみるか。

どうせ、心の内もバレてるみたいだし。

おれは振り返り、木ノ下と向かい合う形となった。


「なんでそんなに他人に世話を焼くんだ?」


「世話……?」


「ああ、中学の時もそうだった。おれがクラスで1人でいると話しかけてきて、1人にならないようにしたり、他のクラスメイトのためにやたら世話焼いたり。今だってこうして片付けを手伝ってくれてるけど、正直、言い方悪いけど、媚びを売っているようにしか見えなかった。だからおれは……」


嫌いだった。そう言おうと思っていた。

だが、おれはその言葉を飲み込んだ。恐らく、この言葉を言ったらきっと後悔する。それに木ノ下にはおれがなんて言いたいかもう分かっていると思ったから。


「やっぱりそう見えちゃうよね、はは……」


木ノ下は暗い表情で自虐的な笑みを浮かべ、少しだけ笑った。だが、その笑みはとても悲しそうに見えた。


違う。おれはそんな表情が見たくて、こんなことを言ったわけじゃない。ただ、理由を知りたくて……

くそ、もっと上手く言えただろ……

普段は色んなことをベラベラと言ってるくせに……

何やってんだよ……

たまらず、唇を噛み締め、拳を握る。


「木ノ下さん!そろそろ帰るわよ!」


この空気の中、なんて言おうか、そう考えていた時、声がかかってきた。かけてきたのは木ノ下の学校の顧問の先生だ。


「あ……はい、すぐに行きます!」


木ノ下はそう返事をすると、慌てて倉庫から出ていった。


「それじゃあ……またね……」


去り際にかすかに聞こえてきた言葉。

初めて見た木ノ下の落ち込んだような、悲しい顔。いつもと違い、元気のない声。

おれはその光景を思い出し、激しく後悔しながら、しばらくその場に佇むしかなかった。

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