出来る人間
「先に帰ってなくて悪かった」
病院からの帰り道、隣を歩く遥香におれは軽く頭を下げながら謝った。
あれからすぐに病院を出たが、家に着くのは夜の7時を回ってしまうだろう。早く帰って晩御飯を作る予定だったのに、遥香には申し訳ないことをしたな……
「ん?ああ、別に気にしてないからいいわよ。それより芽衣と何かあったの?私が声かけるまで、なんか重い空気だったけど」
「いや、別に……その、話す話題がなかったんだよ……」
やはり、側から見ていてもおれ達の空気は重かったらしい。まぁ空気をわざと重たくしたのはおれだが。それにしても空気が重いと分かっていて、それでも声をかけてくれた遥香にはさすがとしか言いようがない。
「ふーん……」
遥香は含みのある返事をしながらも、それ以上、何かを聞いてくることはなかった。
恐らく、おれが嘘をついてることがわかっているのだろう。しかし、本人が言いたくないことをわざわざ聞く必要はない。自然とそういうことができる。遥香はそういう人間だ。
「あ、そういや、スーパー寄っていいか?晩御飯用に食材をいくつか買いたくて」
話題と空気を変えたくて、おれは努めて明るい声でそう尋ねた。本当はスーパーに寄る必要はないのだが、何か話題をと考えた結果、こうなってしまった。主婦かよ、おれ……
全く、自分に呆れてしまうな……
「了解。あ、じゃあ、ついでに夜食用のデザートも買ってもらおうかな」
「へいへい……」
病室であんだけ甘い菓子食ってたのにまだ甘い物食うのかよ……
おれは呆れたように返事をしつつ、遥香と共にスーパーまでの道を歩くのだった。
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