好きかどうかなんて
「えっと、これとこれと……あ、これもいいかも」
1階にある売店で目に付いたものを片っ端からカゴに放り込んでいく遥香。あっという間にカゴの中が食べ物で溢れていく。
「いくらなんでも買い過ぎじゃないか……?それにあと1時間くらいで夕飯出てくる時間だぞ」
山籠りでもするのかって量だぞ。ほんとにこんなに食べるつもりか、あの人?
確かに食事の場では、いつも大量に食べているが、それにしたって量が多すぎる気がする。
「いいのよ。どうせ、夜になって腹減ったー!って叫んでナースコールするに決まってるんだから、むしろ多いくらいでいいのよ」
「ああ、なるほど」
どうやら遥香には先のことまでお見通しのようだ。さすがは親子といったところか。
「まぁお菓子は私が食べるつもりだけど」
言いながら、遥香は目星をつけたお菓子をカゴの中に入れていく。
「人のお金だからって勝手に……」
「だって、病院に行かなきゃいけないってなったから穂花との買い物も途中で終わりにしたんだし、これくらい、いいでしょ」
「まぁ確かにそうだが……穂花には悪いことしちゃったな」
京香さんからの電話の後、おれ達は穂花に事情を説明してここにやってきたのだ。
まぁ穂花にはおれが門川家に居候していることをまだ話していないから「なんで京介君も行くの?」って言われて、かなり焦った……
結局、遥香が「海外に赴任してるお父さんの代わりに色々と面倒見てくれてるから」って言ってくれて助かった。
「あら?なんだか、随分優しいじゃない?あ、もしかして穂花のこと好きなの?」
「ち、違うわ!これは一般的な意見としてだな……」
「ふーん……?まぁ今はそういうことにしておいてあげるわ。じゃあ私はお会計してくるから」
なんだか含みのある笑みを浮かべながら、遥香はレジへと向かった。
全く、穂花のことが好きかだなんて……
少し焦ってしまったじゃないか。
でも、まさか穂花から告白されたなんて言えないしな。
でも、なんでこんなこと聞いてきたんだ、遥香は。少し前なら絶対聞かなかっただろうに。
そんなことを疑問に思いつつ、売店を出た後、おれと遥香は大量のレジ袋を抱えながら、昌樹さんのいる病室へと向かう。エレベーターを降り、もうすぐ病室の前にたどり着くとなった時。
「ん?」
遠くの方に見知った顔が見えた気がして、おれは足を止めた。
「あれ?どうしたの?」
おれが足を止めたので、促されるように隣を歩いていた遥香も足を止めた。
「いや、あれ」
おれはレジ袋を片方の手に移し替え、待っていない手で遠くの方を指差した。
「え?あ、さっきの……」
おれが指差した先には先ほど、ショッピングモールで出会った女の子とそのお母さんがいた。そして、その2人に挟まれるように看護師さんに押されながら、車椅子に座った人物がいた。寝ているのか俯いているので顔が見えないが、おそらく女の子の姉だろう。すらっと長い髪が目に入ったからだ。
「ここで会うなんてすごい偶然よね」
「全くだな。また会うとお礼言われそうだし、そうなる前に病室に入ろうぜ」
「そうね」
おれの言葉に苦笑しつつ、遥香は病室のドアを開けた。
「おお、やっときたか」
ドアを開けると待ってましたと言わんばかりに昌樹さんは声を上げた。どうやら。仕事の資料と思わしき物を読んでいるところだったようだ。
「はい、これ」
遥香は先ほど売店で買った食料が入った袋を昌樹さんに差し出す。
「ありがとうな。それじゃ早速……!」
そう言って、よほど腹が減っていたのか、昌樹さんは資料をカバンにしまうと、ものすごい勢いでおにぎりやパンを食していく。
すげー食欲……
思わず、呆気に取られてしまう。
「あんまりがっつき過ぎないでよ?」
遥香はため息を一つ吐きながら、椅子に腰掛け、もう片方の手に持っていた売店の袋から紙パックの紅茶を取り出した。
「ほら、あんたの」
その言葉と同時におれに向かって、何かが差し出された。
「え?」
「コーヒーでいいんでしょ?」
「え、ああ……」
遥香が差し出してきたのは、おれがよく飲む紙パックのコーヒーだった。まさか買ってくれていたとは……
おれは心の中で驚きつつ、それを受け取り、遥香の隣に腰掛けるのだった。
◆
夕方の5時30分。
昌樹さんの病室に晩御飯が運ばれると同時におれは病室を出た。
というのも、病院の決まりで近親者以外は6時までに病室から退出するようにと病院側の決まりになっており、遥香も遅くならないうちに帰ると言っていたので、先に帰って晩御飯を作っておこうと思ったのだ。ちなみに京香さんは今日だけ病院に泊まるとのことだった。
病室を出てからエレベーターのボタンを押す。
と、おれがエレベーターが来るのを待っていると左隣に何かが止まった。
ハッキリと見てはいないが、チラッと視界に入った感じで車椅子だとわかった。
まぁ病院だし、当たり前か。そんなことを思っていると。
「もしかして来ヶ谷君……?」
突然、名前を呼ばれたのでおれは反射的にそちらの方へと首を向けた。
「……!」
その人物の顔を見た時、おれはたまらず目を見開いた。
「久しぶりだね。私の事、覚えてる……?」
「あ、ああ、もちろん……髪型変わったんだな……」
「あ、これ?うん。高校デビューってやつかな」
自身の髪を触りながら、軽く笑う。
この笑顔、変わらないな。
相変わらず……見ているだけで腹が立つ。
彼女の名は
おれと最も対極にいる人物であり、おれが今まで出会った人物の中で最も嫌いな女子だ。
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