8章

入院

「はっはっは!いやー、すまん、すまん!」


「全く笑い事じゃないわよ……すごく心配したんだから」


病室のベッドの上で横になりながら、大きく笑う昌樹さんを呆れた目で見ながら、遥香はため息を一つ吐いた。

それにしても病室が個室でよかった。おかげで昌樹さんが大声で笑っても誰かに怒られる心配もない。


「まぁ、打撲だけで済んでよかったですよ」


少しは場が和むようにと思いながら、おれは2人に向かって言った。


京香さんからの電話はなんと昌樹さんが病院に運ばれたというものだった。

個人的には病気や怪我をしそうにない人なので、正直かなり驚いた。

京香さんの話によると、仕事中に依頼人をかばって怪我をしてしまったそうだ。

しかし、昌樹さんに仕事の内容をいくら聞いてもはぐらかされるだけで特に教えてはくれなかった。

ただ、病室にあるテレビのニュースから海外の有名なアーティストがお忍びで日本に来ていたそうで、それを聞きつけた熱烈なファンが訪れていた店に押しかけたそうでその騒動を止めようとしたその場にいた数名が怪我をしたと報道していた。昌樹さんの怪我と関係がないとは思えなかったが、恐らく仕事上、言えないこともあるのだろうと思い、特にそれ以上、追求はしなかった。

ちなみに京香さんは昌樹さんの服を取りに一度家に帰っており、この場にはいない。


「それでいつ頃、退院できそうなの?」


「医者の話では、1週間程で退院できると言っていたが、そこまで大袈裟とは思えんしな」


「ははは……」


確かにこの人なら明日にでも退院してそうだしな。それにしてもこれだけガタイが良い昌樹さんが怪我するなんて、どれぐらいファンが押し寄せたんだ……

常人なら骨くらい簡単に折れてそうだな。


「ああ、それで来てもらって早々、悪いんだが、売店で何か買って来てくれないか?どうにも腹が減って仕方ないんだ」


昌樹さんが空腹を訴えている腹を抑えながら、もう片方の手でカバンの中から財布を取り出して、遥香に手渡す。


「適当でいいの?」


「ああ、腹持ちしそうなやつを頼む」


「了解」


昌樹さんから渡された財布を受け取り、遥香は病室を出て行こうとする。


「ほら、何やってんの?行くわよ」


「え……?あ、ああ、ごめん、ごめん」


動かないおれを見て遥香がそう声をかけてきた。てっきり1人で行くもんだと思ってた。

なんか当然と言わんばかりだったな……


「はっはっは!まったく仲良しだな!!」


そんなおれ達を見て、昌樹さんはまた豪快になんとも嬉しそうに笑っていた。

遥香は特に気にしていないようだったが、おれは少し気恥ずかしくなり、会釈をしつつ、病室を出て行った。

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