手のひらの温もり

「ここにいたのか……」


電車を降りてからどれくらい経ったのだろう。

辺りはすっかり暗くなってきていた。

課外学習へは山へ来ていたのだが、その山の入り組んだ道に穂花はいた。

あちこち探しまわったので、服が所々汚れてしまった。だが、そんなことはこの際、関係ない。


「え……」


おれの声に気づいて、地面にへたり込んでいた穂花がゆっくりと顔を上げた。

おそらく、迷子になってからずっと泣きっぱなしだったのだろう。

見てわかるくらいに目が赤く腫れあがっていた。


「ほら、帰ろう。みんな心配してたぞ」


言いながら、おれは手を差し出した。


「……」


おずおずとした様子で穂花は手を握ってきた。そしておれの手を握った瞬間。


「うぅ……わぁぁぁぁ……!」


穂花が盛大に泣き出した。


「お、おい……!なんだよ、いきなり……」


たまらず、その様子にたじろいでしまう。


「怖かった……寂しかったよ……!」


おれの手をぎゅっと力一杯握りながら、穂花はそう声を漏らした。

こういう時、どうすればいいかなんておれはまだわからなかった。まぁ今もわからないが。

だけど、どうにかしてあげたいと思い、おれは穂花が落ち着くまでの間、ずっと頭を撫でてあげた。


そして、2人で山を下り、おれ達がようやく駅にたどり着くとそこには先生数人とおれの親父と穂花のお母さんが。

おれ達の姿を見た途端、穂花のお母さんは駆け寄り、穂花をぎゅっと抱きしめたが、おれは何故か親父に頭を叩かれた。

あれ、おれは抱きしめてくれないの?と思って、おれが顔を上げると親父は無言で頭を撫でてきた。


普段泣かない親父がうっすら涙を浮かべているのがチラッと見えたので、そこでようやく心配かけてしまった事を悟り、ごめんと小さい言いながら、少しの間、そのまま頭を撫で続けられた。


その後、全員揃って電車に乗っている途中、穂花はおれの手をずっと握っていた。

きっとまだ不安なんだな。とその時はその程度にしか思っていなかったが、おそらくこの時からだったのだと思う。

穂花がおれのことを好きになっていたのは。


それからおれと穂花はよく遊ぶようになった。

大体は何人かで遊ぶのがメインだったが、たまに穂花に誘われ、二人で遊んだり、出かけたりしていた。

もちろん、二人で出かける時は必ず穂花から誘われた。


おれとしては何とも思ってなくて、ただ楽しいという印象しかなかったが、穂花からしたらもっと違った意味を持っていたのだろう。

そんなおれ達だったが、ある日、突然別れがきた。


小学校の卒業式から1週間ほど経った頃、おれ宛に手紙が届いた。差出人は穂花。

そこには親の仕事の都合で既に引っ越しており、中学校はおれとは別のところに通うと書いてあった。

いきなりの報告でおれはかなり面食らった。てっきり中学校も同じだと思っていたし、卒業式の時もそう声をかけていたから。

しかし、もっと面食らったのは手紙の最後に書かれていた一文だった。


「ずっと京介君のことが好きでした。迷子になった私を助けに来てくれた時から。またどこかで会えたらその時はこの気持ちを言葉にして伝えます」


まだ子供だったおれにも分かるくらいハッキリとした告白だった。

二度と忘れることはないくらい、衝撃を受けたことを今でも覚えている。


こういう時って無駄に自分に言い訳したりするよね。もっと違った意味があるはずだとかって。まぁ結局、思い切って親父に打ち明けたら、これは告白に決まってるだろって言われたっけ。そういえば、あの時の親父、やけに嬉しそうだったな。


しかし、もう二度と会うことはないと思っていたけど、まさかここで再会するとは思ってもみなかった。

っていうか、会えたからおれ、告白されるんだよな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る