イマイチ決まらない

「はぁはぁ……!」


おれは激しく息を切らしながら、勢いよく屋上へ入る扉を開けた。


「やぁ、もう来たんだ。案外早かったね」


そこには薄気味悪い笑みを浮かべた佐藤が。

やはり、こいつはずっとここにいた。


おれは佐藤の顔を見た瞬間、勢いよく掴みかかろうとした。

だが、それはあっさりとかわされ、逆に足をかけられ、地面に転ばされてしまう。

おれ、かっこわる……


「しかし、君がここにいるってことは彼女は無事ってことか……」


まるで無事なことが残念だと言わんばかりに佐藤は大きく溜息を吐いて、首を垂れた。


「お前……」


おれはゆっくりと立ち上がりながら、佐藤を睨んだ。


「全く計画が台無しだな。それもこれも君が原因だ」


「計画ってお前……遥香はもう少しで大怪我するとこだったんだぞ!?」


「それが狙いだよ。手に入らないのなら壊れてしまえばいい。それが物のあるべき形だ」


「物って……!」


遥香はお前のものじゃない。そう言おうとした時だった。


「どういうこと……?」


その声におれと佐藤は同時に屋上の扉の方へと顔を向けた。

そこには足を痛めているはずの遥香が立っていた。


「なんでここに……?」


まさか、おれが保健室を出て行った後から付けてきたのか?

ケガしてるのになんて無茶を……ってそれよりも今の会話聞かれたか……?

しかし、おれが何かを言おうとする前に遥香が口を開いた。


「佐藤君が事故をわざと起こしたの……?」


信じられないといった様子でゆっくりと痛む足でこちらに歩み寄りながら、遥香はそう佐藤に投げかけた。

対する佐藤は臆することなく、大きなため息を吐いたあと、口を開いた。


「そうだよ。全く、失敗に終わって残念だよ」


罪悪感のかけらも感じさせず、佐藤はあっけらかんとそう言った。

まじでこいつは狂ってる。おれは心底そう思った。


「じゃあ演劇部の友達がケガしたのも……?」


「そうだよ。というより、ケガ自体が嘘。僕がお願いしたら快く引き受けてくれてさ」


「快くって……」


絶対嘘だろ。それ。普通ならこんな頼み聞くわけない。脅されたか、弱みを握られたか、大方、そんなとこだろ。全くやり方が汚すぎる。


「まさか、そこまでやるなんて……そんなに私と彼が一緒にいるのが気に食わない?」


「ああ。許せないんだ。こんな奴が君の隣にいるのが。君の隣にいるのは僕だけで十分なんだよ。早く君も気づくべきだ……」


佐藤はおれを指差しながら苦悶の表情を浮かべた。

その表情には狂気すら感じた。


「別に私が誰と付き合おうと勝手でしょ。って別に男女の仲ってわけじゃないけど。それよりも今回のことはさすがに見過ごせないわ。というわけで……」


遥香がそう言い終わった瞬間、屋上の扉からとてつもない冷気と圧倒的な恐怖が溢れ出てくるのを感じた。

そして、ゆっくりと開いた扉の奥からはビデオカメラを肩から下げた昌樹さんが鬼の形相で立っていた。というか、背中にまじで化身というか、鬼が見えるんだが。


最強のセコム登場。佐藤死んだな、こりゃ……

っていうか、力強すぎてドアノブ取れてんだけど……

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