本性

時刻はそろそろ昼の11時になろうかというと頃。


「はぁ……」


中庭まで来てからおれはたまらず、ため息を吐いてしまった。

というのも、中庭には商店街の方々の屋台がいくつかあるのだが、その全てに長蛇の列が。

計画的には成功だが、まさかここまでとは思わなかった。

朝から動きっぱなしで腹も減ったので、早めの昼飯でスタミナ回復と思ったが、この調子じゃ無理だな……


まぁ実行委員だからと一言言えば、何かしら恵んでくれるだろうけど、その後のことを考えるととてもじゃないが言えない。

人間の視線だけで人って精神的に殺せるんだな。って先ほど思い知ったばかりだからな。

おれはがっくりと項垂れた後、写真を数枚撮り、せめて水分補給だけでもと思い、自販機の方へと向かう。その時だった。

後頭部に突き刺さるような視線が向けられたような気がして、おれは反射的に後ろを振り向いた。その視線の先には。


「佐藤……」


怪しい笑みを浮かべた佐藤が立っていた。

そして佐藤はすぐに背を向けて歩き出した。おれはその後を追っていく。階段を上り、やがて、おれ達は屋上へとやってきた。


「やっぱり君はすごいな。視線を向けただけで気づくなんて」


「どうも……」


こいつに言われても褒められてる気がしないな。

そもそも褒められてるのかすら、わからない。


「文化祭は成功したみたいだね。よかった、よかった」


満面の笑みでそう言う。だが、その笑顔は作り物だ。本心じゃない。それはすぐに分かった。


「それで何か用か?こう見えても忙しいんだが」


「ああ、そうだよね。それじゃ単刀直入に一つだけ聞こう。君はここにいていいのかな?」


「どういう意味だ……?」


「そのままの意味さ。そういえば、今はなんの時間だったかな」


「今って……」


今は確か体育館で演劇部の劇を……ってまさか……!


「……!」


おれは佐藤に詰め寄って何をしたのか聞き出そうとしたが、それよりも前に身体は屋上から出る扉の方に向かっていた。

こいつに聞いたところで素直に答えるとは思えないし、何より遥香が心配だった。

そして、おれが勢いよく屋上を出る扉を開けた時だった。


「……手に入らないのならいっそのこと壊れてしまえばいい」


屋上から出る瞬間に佐藤がやけに低いドスの効いた声でそう呟いたのが耳から離れなかった。

おれは歯をぎりっと食いしばり、勢いよく階段を駆け下りていった。

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