お礼の仕方

翌日の日曜日。午前10時20分。

今日は実行委員の活動も休みだが、おれは私服姿で学校へと来ていた。

そして、いつものように中庭のベンチで紙パックのコーヒーをすすりながらある人物を待つ。


「あ、もう来てたんだ」


中庭に来て、やや経ってから後ろから声をかけられる。


「ん、まぁな。それにこっちから呼び出しといて遅れるのも悪いし」


おれが後ろに振り向くと、そこには制服姿の柳がいた。

あ、別に私服が見たいなんてこれっぽっちも思ってませんよ?ホント、ホント。


「前もだったけど、意外と気遣いできるんだね」


言いながら、柳はおれの横に腰掛けてきた。


「意外とは失敬だな」


むしろ当然だと思うんだが。ぼっちで気遣いもできなかったら、壊滅的だぞ。救いどころゼロ。

まぁ、ぼっちで周りをずっと観察してたおかげで養われたスキルってだけなんだけど。


「まぁそんなことより本題に移ろう。期待していいんだよな?」


「もちろん。でも、この情報は高くつくよ?」


「分かった。小指でいいか?」


痛いのは嫌だが、この際仕方ない。


「なんでお礼の仕方がヤクザの指詰めなの!?」


おれが覚悟を決めた横で柳が思いっきり突っ込んできた。こいつ、中々、ツッコミの才能あるよな。なんか楽しい。


「冗談だよ、とりあえず、今はこいつで我慢しておいてくれ」


そう言って、おれはあらかじめ買っておいた缶の紅茶を柳に差し出した。

確か、好みはストレートの紅茶でよかったはず。


「あ、ありがとう。ここ、寒いからあったかいの飲みたかったんだー」


柳は嬉しそうにしながら、おれの差し出した紅茶を受け取った。

そして、プルタブを開けるとそのまま口を付ける。


「それで早速なんだが」


「うん。佐藤君のことだよね」


缶から口を離した柳がそう言う。

おれの聞きたいことは昨日のうちにメールで送っておいたから話が早い。


「彼は有名人だから新聞部でも、たまに記事を取り上げたりして扱ってるんだけど、悪い噂は少なからず聞くこともあるよ。でも、目撃者もいないし、彼は良い意味で有名人だから、無闇に悪い噂を記事にする必要もないかなってなってる」


「目撃者なし……か」


有名人を妬むから悪い噂を流すって言うのならわかるが、それにしても、立て続けに目撃者ゼロってのはどうにも不自然すぎる。

やっぱり、報復が怖いから言えないってところなんじゃないだろうか。


しかし、新聞部の方も情報はほとんどないみたいだな。おれ1人でできることも、限られてくるし。

しかし、何か動きを察知されると面倒だし、今はなるべく大人しくしておくのがベストってことか……

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