相談
その日の夜。
おれは晩御飯のチャーハンを食べながら、昼間の出来事を思い出していた。
「ねぇ、ちょっと……」
「……」
「ちょっとってば!!」
「うおっ!?な、なんだよ……」
いつの間にか遥香が目の前まで顔を近づけていたので、おれはたまらず叫んでしまった。
「なんだよ。はこっちのセリフ。さっきからどうしたのよ。ずっと上の空って感じだけど。ご飯もまともに手をつけてないし」
「あ、ああ……」
どうやらかなり態度に出てしまっていたようだ。
まぁ1人で悩んでいても仕方ないか。
それに佐藤と交流のありそうな遥香に相談するのもありだな。
というわけでおれは昼間の出来事をかいつまんで説明し始めた。
ものの5分ほどで話は終わったが、話の途中から遥香はずっと腕組みをしたまま、難しい顔をしたままだった。
「そっか。そんなことが……」
「あいつ、なんなんだ?なんか掴み所がないというか……」
その先をどう言おうかおれは躊躇ってしまった。
はっきり言って、奴にはある種の恐怖を感じた。底知れない冷たさも。
「彼はね、私と同じというか、いや、それ以上かも。プロにもスカウトされるくらい実力のあるサッカー選手で、それに加えて外見もいいから、うちの学校じゃかなりの有名人なの。まぁあんたは知らなかったみたいだけど」
言いながら、遥香は苦笑した。
あいつ、有名人だったのか。
しかもプロにスカウトされるくらいって相当だな。
自分で有名だと思うって言ってたのも、強ち間違いじゃなかったってことか。
「私も親しみやすい人だと思ったから最初のうちは結構仲良くしてたんだけど……」
そこまで言って遥香の顔に影がさしたよう気がした。
「3ヶ月くらい前にね。突然、告白されたの。こっちとしては異性としてみてなかったから断ってさ、本人も気にしないって言ってくれたんだけど、そのすぐ後くらいからかな。段々と良くない噂を聞くようになって……」
「噂?」
「うん。彼、強欲って言うか欲しいって思ったものは必ず手に入れたいって思ってるらしくて、私が誰かに告白されたってのを聞きつけると告白してきた相手を見つけ出して脅してるみたいなの。お前如きが付き合えると思うなって……」
「なんだよ、それ」
全て手に入れたいってどこの魔王だよ。
大体、お前のものでもないのに。というか誰のものでもない。遥香は遥香だ。
「もちろん、誰かが直接見たわけでもないし、あくまで噂の域なんだけど……」
「それってその現場を直接見た人間はいるけど、あいつからの報復が怖くて言えないんじゃないか?」
犯罪の現場を目撃をした人がよく陥りやすいやつだ。
何か言ったら、危害を加えられてしまうんじゃないかと思ってしまう。
だから、アメリカには報復させないために証人保護プログラムというやつがあるわけなんだが……って話が大げさになってしまったな。
「それもそうかも……彼、ケンカも強いらしくて。それにサッカーの試合で気にくわないことがあるとすぐに手を出すこともあるみたい……」
「そんなやつがプロにスカウトされるのか」
大丈夫かよ、それでって思ってしまうな。
出場する度にレッドカードの嵐になりそうだが。
「高校に入ってからはそういうのは無くなったみたいだけどね。でも、そういう話があるから誰も声をあげたりしないのかも……」
はぁとため息を一つ吐いたあとに遥香はすっかり冷めきってしまったお茶を一気に飲み干した。
「とにかく何もないといいんだけど……」
「そうだな。おれとしてもなるべく関わり合いたくないし、委員の方も極力、別行動の方が無難じゃないか?」
こう見えてもおれはケンカは弱いからな。
まぁ見た目通りだけど。
というかまともにケンカしたことがない。
何故ならぼっちだから。って言わせるなよ、全く。
「そう……ね。必要な時以外は離れて過ごしましょうか……」
それにしてもめんどくさい奴に目をつけられたもんだ。
別におれと遥香は何もないっていうのに。
ったく、欲しいものは必ず手に入れるってほんとにどこの魔王だよ。
一刻も早く、勇者に退治してほしいんだ。
それよりも、噂がどこまで本当か気になるな。と、なるとこういうのに詳しい奴に聞くのがベストだな。
おれは遥香に見られないように携帯を出し、手早く文章を打つとすぐさまメールを送信した。
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