最悪の出会い

翌日のホームルームにておれ達は商店街の方々が協力してくれることになったため、今の予算でも飲食系を出せることになったと伝えるとクラス中は一気に湧き上がった。

何故協力してくれるようになったのかという詳細は省いたが、この歓声を聞くだけでやってよかったと思えた。


そして多数決の結果、おれ達のクラスは喫茶店をやることになり、飲食店でのバイト経験がある数名を中心にメンバーが構成されていった。

出し物が決まったのはよかったが、まだメニューをどうするか、どう料理を調理していくかなど課題は残っていて、やるべきことをまだまだある。


ここからが勝負だ。おれは心の中で今一度、気合いを入れ直した。














文化祭があと3週間に迫ったある日の土曜日。おれは学校へと来ていた。

もちろん、文化祭の準備である。

今日は各学年で手分けして去年使った文化祭の資材を倉庫から出して、今年も使用できるか確認をしている。

しかし、1年間も倉庫にあったため、どれもこれも埃だらけで使用できるか以前に、まずは綺麗にするところから始める必要があった。


「はぁ……」


作業開始から2時間後。おれは中庭のベンチに座り、休憩と称して買ったばかりの紙パックのコーヒーをすすっていた。


ここはやっぱりいい。人気がないし、落ち着ける。

ちなみに遥香は今、別の作業でここにはいない。


「大丈夫かな、あいつ……」


無意識にふと、そんな言葉が出た。

あれ、なんで、こんなこと思うんだろう。


「でっ!!」


そんな風に物思いにふけっていると、何かが勢い良くおれの後頭部を襲い、たまらず声が出てしまう。


な、なんだよ、ったく……

後頭部を右手で摩りながら、恨めしげに当たってきたそれに目を向ける。

ってサッカーボール?

なんでまたサッカーボールが……

おれがサッカーボールを拾い上げると、ほぼ同時に遠くからこちらに向かって声が聞こえてきた。


「いやー、悪い悪い。思いっきり蹴ったやつが壁に当たって、変な方向に飛んでいっちゃって……」


おれの元に走り寄ってきたサッカー部員の男子はユニフォーム姿に髪は茶髪でワックスを付けているのか、逆立っており、おまけに耳にはピアスが付いていて、如何にもサッカーやってそうなチャラ男だった。

ていうか、ピアスっておい。校則違反だろ。


「ってあれ、もしかして来ヶ谷君?」


そんなおれの考えをよそにチャラ男(仮称)はそう尋ねてきた。


「そうだけど……」


なんでこいつ、おれの名前を知ってるんだ?

まぁ名前くらい知られてても当たり前なんだけど。

いや、おれの場合、当たり前じゃなかったわ。名前知ってるの先生か遥香か柳くらいじゃないか?

それってある意味、すごくね?


「あれ?なんで名前知ってんだって感じ?同じクラスなんだけど、おれのことわかんない?」


「悪い、おれ、ぼっちだからクラスメイト全然知らないんだわ」


これ、本音。名前知ってるの遥香と遥香と戯れてるやつくらい。


「はは、自分で言っちゃうんだ。君、案外面白いんだね。おれ、佐藤駿さとう しゅん。自分では案外有名人だと思ってたんだけど、まだまだってことかな」


「……」


自分で自分のことを有名だと思っているだと?

なんだこいつ。どんだけナルシストなんだ。自分に自信持ちすぎだろ。そりゃ確かにイケメンだとは思うけど、その性格はいただけないな。


「ってあれ?なんでおれのこと、睨んでるの……?おれ、なんかした?」


「悪い。元からこういう目つきなんだ」


「いや、絶対嘘でしょ……まぁそれより、ちょうどよかった。君とは一度話してみたかったんだ」


その言葉と同時に佐藤の出す雰囲気と目つきが少しだけ変わった。簡単にいうと冷たくなったというか、嫌な緊張感が漂ってきた。


「おれに話?」


言いながら、おれは少し寒気を感じた。

なんだこいつ。さっきまでと様子が違う。

さっきまではどこか親しみやすいというか、ゆるい感じだった。なのに、今は目つき変わって、目の奥がまるで氷みたいに冷えてる感じがする。


「そう。君がなんで実行委員に立候補したのかなって。しかも、相方は遥香だ。どう考えても釣り合わない。なのに、彼女は文句すら言わない。まるで、そうなって当然かのように」


佐藤はそう言っておれの目をはっきりと見てきた。いや、正確に言えば覗き込んできた。

まるで、おれの心を読み取ろうとしているかのように。


「別にたまたまだろ……」


「はは。君って嘘つけないタイプ?たまたまなんて言い訳にもならないよ」


「……」


くそ、やりづらい。なんなんだ、こいつ?

さっきからペース乱されっぱなしだ……


「まぁ言いたくないなら別にいいんだけどさ。でも、これだけは言っておく。君は彼女にはふさわしくない。現実をちゃんと見るべきだ」


それだけ言って佐藤はおれからサッカーボールをひったくると、踵を返して元来た道を歩いていった。


「……」


去っていく佐藤の背中をぼーっと見つめる。

結局、おれがその場から動くことができるようになるのに、少しばかり時間がかかってしまった。

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