ラブコメよろしく!

1時間後。


「……」


ベッドの上で心地よさそうに寝息を立てる遥香。


おれが作ったお粥を完食し、その満腹感からか再び眠気が襲ってきたのだろう。

寝る直前に体温計で熱を測ってみたが、微熱だったのでちゃんと看病すれば明日には治ると思う。

ちなみに額同士、触れさせて体温を測るというラブコメよろしくのやり方もあったが、そんなことをしたら遥香にぶっ飛ばされることだろう。というか、そんなやり方で体温測るやつ、現実にいるか?

いたら、是非教えてほしいもんだ。


なんてことを考えながら、おれは食器を片付けるため、遥香の部屋からそっと出て行こうとした。その時。


「ん、きょ、京……」


遥香がおれの名前を呟いたので慌てて振り返った。

そして、じっと遥香の顔を凝視する。


寝てる……から寝言か……?


いきなり自分の名前を呼ばれたから起きてるのかと思って咄嗟に振り返ってしまった。

というか、遥香がおれのことを名前で呼ぶわけないか。ここにきてからずっと「あんた」としか呼ばれてないからな。


名前で呼ばれてたのはずっと前のことだ。

あの時は確か……あだ名で呼ばれて……

って思い出すのはやめよう。

なんか恥ずかしくなってきた。


「きょ、京……」


間髪いれず、再び遥香がおれの名前を呟いたのでおれは持っていた食器を机の上に置いて、次の言葉を待つ。

このまま部屋を出て行ってもいいが、遥香の寝言が気になる。なんで気になるのか、自分でもよくわからないが……


「きょ、京、京……一……」


しかし、待ってみた結果、遥香から出てきた言葉は正確にはおれの名前ではなかった。


誰?京一って。

おれ、京介だけど。あ、いや。別におれの名前が出てくるなんて微塵にも思ってないけど!か、勘違いしないでよね!!

っておれは誰に向かってツンデレしてんだよ。

たまらず、自分に突っ込む。

それにしても、なんだよ。せっかく待ったのに別人の名前かよ。

ってか、こいつの知り合いに京一なんてやつがいたんだな。初耳。

おれはため息を一つ吐いたあと、再び食器を片付けようと手をかけた。


「京一……だめ……」


遥香が苦しそうにそう呟いたので、おれは手を止めた。


「……」


だ、ダメって夢の中で何してんだよ、京一さんよ……

おれは遥香のその言葉で全身が凍ったように身動きが取れなくなってしまった。


「京一……」


「……」


ごくっと喉を鳴らし、次の言葉を待つ。


「京一……いってらっしゃい……」


「って、え!?」


さっきダメとか行ってたのにいきなりいってらっしゃい?!

どうなってんだ……


「おかえりなさい……」


「早っ!!」


超速だよ、京一さん。世界最速だよ。

どうなってんだ、身体のメカニズム。


「んん……ううん……」


声が少し大きかったせいか、遥香が唸り声を上げたので、おれは慌てて口を紡ぐ。

寝言に突っ込んでる場合じゃなかったな。

早く食器を片付けてしまおう。

おれは食器を再び持つとはるかの部屋から出て行った。

しかし、京一って誰なんだろう……

ものすごく気になる。

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