何級だよ、おい
「はぁ……はぁ……!」
おれは息を切らしながら、必死に家までの道を全力で走っていた。
途中、何度か信号無視をしてしまったけど今回だけは見逃してほしい。何せ、緊急事態なのだから。
遥香から届いたメール。
最初はイタズラかと思ったが、こんな下らないイタズラをするような奴じゃないし、何より文面から緊急さが伺えた。
自宅に強盗か何かが侵入してきたのであろう。だからこその助けてという文字。
全く新年早々、なんて事をしてくれたんだ。
「無事でいてくれよ……!」
おれはギリっと奥歯を噛みしめるとラストスパートをかけて全力でかけていった。
神社から家までは走るとおそらく15分ほどで着く距離。
その道のりが、とてつもなく長いように感じながら、おれはようやく家までたどり着いた。
「遥香!!」
勢いよく玄関のドアを開ける。が、中から返事はなく、静まり返ったままだった。
そういや、メールで2階にいるって言ってたな……
おれは息を殺しながら、ゆっくりと階段を上っていく。
既に大声で叫んでしまったから手遅れかもしれないが。いや、もしかしたら今ので遥香が強盗に人質にされているかも……
くそ、そうなったらおれは自分で自分が許せない。
最悪のシチュエーションが脳裏をよぎり、グッと握りこぶしを作りながら、おれは遥香の部屋の前にたどり着いた。
「……」
スーッと深呼吸をしたのち、ゆっくりとドアを開ける。
遥香の部屋には誰もいなかった。いや、よく見れば1人いた。
「……」
ベッドの上の布団が丸まって人の形をしている。そして時折、もぞもぞと動いている。
なんだ、この生き物。いや、もしかして突然変異ででかくなった芋虫とか?
それならB級映画の香りがプンプンするな。
ってそんなこと思ってる場合じゃない。
この状況はつまり……そういうことだよね。
◆
「はぁ……なんだよ。焦って帰ってきて損したぞ……」
「何よ、こっちは一大事だったんだから……」
ベッドの上で横になっている遥香が布団から顔だけ出して、ぷーっと頬を膨らませる。
その仕草がかわいくて、つい顔を晒してしまう。反則だろ、その顔……
なんとか心を落ち着かせながら、おれは出来上がったばかりのお粥と氷枕を机の上に置いた。
遥香の「助けて」のメールの正体は風邪で動けないから助けて。ということだった。
おれは出かけていて家にいないと思っていたが、実は風邪で身動きが取れなかっただけだったらしい。
それで遥香が寝てる間におれがいなくなっていたので、それに気づいてすぐヘルプのメールを送ったというわけだ。
まぁ何事もなくてよかったけど、せめて風邪だから早く帰ってきて。くらいの文章は欲しかったな……
「それより、食欲はあるか?」
「ん、少しくらいなら……」
「なら、よかった。今は食べられるだけ食べた方がいい」
おれはお粥を小皿によそい、遥香の前へと差し出す。
遥香はそれを見て、ベッドから上半身だけ起こした。
そして小皿を受け取り、スプーンですくったお粥をフーフーと冷ましたあと、それを口に運ぶ。
「ん、美味しい……」
うっすらの赤みを帯びた顔で遥香は少しだけ頬を緩ませた。
その顔を見たら、さっきまでの心の中にあった文句はどこかに消えてしまうのだった。
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