新世界の神

人垣を少しずつではあるが掻き分け、おれ達はようやく賽銭箱の前へとたどり着いた。


そして2人並んでお金を賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らした後、パンパンと手を合わせる。

ちなみに投げ入れたお金は5円=ご縁。

安易とか言うのはやめてほしい。

こう見えて意外とデリケートなんだから。

割物注意のステッカー貼ってほしいくらい。


さて、そんなことより、願い事は何するか。

やはり、ここは切実にぼっちじゃなくなりますようにか。自分で言ってて悲しいが。

しかし、もし本当に神様がいるならおれをぼっちになんてさせるわけがない。そんな残酷なこと。

と、なれば、やはりこの世に神様なんていないってことか……?

だったらおれが新世界の神になってやる。

ふっふっふ……見てろよ。

目に物見せてやるぜ……


「ねぇ、何考えてんの?」


すると柳は自分の願い事が終わったようで、ずっと目をつぶっていたおれの腕を引っ張ってくる。


「なんだよ、今、いいとこなんだよ」


「いいとこって何よ!?」


はぁ、柳のツッコミというとんだ邪魔が入ってしまったな。

今、脳内で新世界計画の第2章が始まったところだったのに。まったく。


結局、新世界計画は諦めることにし、おれは無難に「平穏に過ごせますように」とお祈りをした。

まぁぼっちだから、基本平穏なんだけどね。

ははっ……あれ、なんだろう……

目から汗が出てきた……おかしいな……


願い事が終わってから、おれ達は沢山出店されている屋台にいくつか寄り、気に入った食料を調達していく。

こういうところで食べるたこ焼きとか焼きそばってやたら美味いんだよな。なんでだろ。


そんなことを考えながらおれが出来立てのたこ焼きを頬張っていると、隣にいたはずの柳がいなくなっていた。


「……」


あれ?どこ行った?まさか迷子……?

おれはキョロキョロと周りを見渡すが、柳の姿はない。

でも、おれがたこ焼き買うまでは隣にいたしな。

っておい。いたけど、あれっておい……


おれの視線の先には大量の綿あめを頬張っている柳がいた。

おそらく、いくつも買った綿あめを一つの割り箸か何かにまとめたのだろう。

まるで巨大な風船のように膨らんだ綿あめになっている。


っていうか、でかすぎだ。

周りの人、全員もれなく凝視してるし。

それを見た子供達はあれがどこかで買えると思って親にせびってるし、なんて傍迷惑な行為なんだ。


「あ、京君!見て見て、これ!最高だよー」


幸せそうに語りながら、綿あめをバクバク食べていく柳。

まるで掃除機で吸い込むかのように無くなっていく綿あめ。

世界一の吸引力の掃除機も真っ青なくらいの吸引力。


全くどうなってんだ、こいつの胃袋……

いや、口か……違うな、両方か……


おれが呆気に取られている間に柳はあっという間に綿あめを完食した。


「ふぅ、美味しかった」


「そりゃよかったな……」


なんか見てたら食欲なくなってきたな……

せっかく買ったたこ焼きも冷めちゃったし。


「さて、行こっか」


「え?どこに?」


個人的には帰る気でいたんだけどな。

まぁそれは無理だろうなと薄々思ってたけど。


「繁華街行こうよ。初売り見にいきたいんだー」


「繁華街ね……」


最近、よく行くな、繁華街。

きっとリア充だらけで溢れかえっていることだろう。

ふっ、想像しただけで武者震いしてきやがるぜ……

ってなんで武者震いなんだよ。

と、自分に突っ込みを入れたところでズボンのポケットに入れていた携帯が震えた。


「ん?」


反射的に取り出し、画面を見てみるとメールが届いていた。差出人は意外なことに遥香から。そこには短文でこう書かれていた。


「助けて」

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