北極より南極の方が寒い

神社まで向かう途中、大勢の人とすれ違う。


「やっぱり人が多いね」


「まぁ元旦だしな」


それにリア充だらけ。

毎度毎度、ベタベタしやがって、全く。

他人の目があることを考えて行動してほしいもんだ。


「京君、睨みすぎ」


「ほっといてくれ。こうでもしないと心が静まらないんだ」


くそ、今にも心の火山が爆発しそうだ。

口から溶岩出せたらいいのに。

それなら北極でも生きていけそう。

でも、そうなると口の中、熱すぎてやばそうだな。やっぱりやめとくか。


「はぁ……今日は私も隣にいるんだから、変な行動はやめてよね?」


「あ、ああ……」


その言葉におれは少し冷静さを取り戻した。

そうだよな、柳がいるんだもんな。

ってこのセリフ、前にもどこかで聞いた気がする。

にしても、こいつ、今日もまたかわいい格好だな。コートにスカート、タイツ、ブーツとか似合い過ぎだろ。

遥香といい、こいつといい、全くリア充候補生はなぜかオシャレだから困りもんだ。

しかし、面と向かってかわいいとは未だに言えない。チキンとか言うなよ……?


心の中で誰かに必死に訴えていると、おれ達はようやく神社へとたどり着いた。のだが。


「うわー、激混みだね……」


「じゃ、帰るわ。おつかれさま」


手を上げて、踵を返す。

さて、帰ったらゲームの続きでもするか。


「っておかしいでしょ」


まぁそう上手くいくはずもなく、柳に腕を掴まれる。


「いやいや、あの中に飛び込むとかマジで自殺行為だと思うんだが」


くじ引きのバーゲンセールか?って思うくらいの人の密集具合。

すし詰め状態って多分、こういうことを言うんだろうなと呑気に思ってしまったくらいだ。


「初詣しなきゃここに来た意味ないじゃん」


「まぁそうだが……」


柳の言うことも最もだし、仕方ないな。

おれは覚悟を決めると神社の中を歩き出した。


「あ、はぐれると困るから服の端でも掴んどけよ?」


「え……あ、うん。ありがとう……」


オレの言葉に柳は頷き、おれのコートの端をその小さな手で握ってきた。


この人の多さだと待ち合わせでも相当苦労するだろうし、何より周りの音が大きくてうるさいからな。電話もあまり役に立たないと思う。

こういう時、リア充なら手を握るんだろうか。全く、そんなことできるなんてどこのギャルゲーの主人公だよって感じだわ。

まぁあいにく、おれにはその素質がないからな。それがよかったのか、悪かったのかはわからないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る