夫婦。悪くない

「あ、来た来た、こっちこっち」


指定された場所に来ると手招きで呼ばれる。


「はぁ……」


「来て早々、溜息ってかなり失礼じゃない?!」


「ああ、そうだよな、悪かった。はぁーーーーー」


「何故、より深く盛大に!!?」


まるで夫婦漫才かのようなやりとりを繰り広げる。

柳と夫婦か。悪くないな、むしろ最高です。でも、叶わない夢だと分かっていますよ、ええ。

そんなおれは今、駅前に来ていた。

横には柳が。

というのも、電話をしてきたのは柳であり、正月なので初詣に行かないかと誘われたのだ。

正直、断りたかったが、断れなかった。

何故なら、柳はいつかのごとく、家の前まで来ていたからだ。


元々チャイムを鳴らしたのが柳であり、出ないため、電話したところ、おれが出たため、今、家の前にいて暇なら初詣に行こうと言われたのだ。

居留守を使っていたため、家の外に出るのは危険と判断し、今、外にいてその後ならということで話を合わせた。


さすがに家の前まで来られて断るのは、かなり気が引けたので出かけることにしたわけである。

それにしたってなんだって、こいつはなんでわざわざ家の前まで来るんだろうか。

家にわざわざ迎えに来るのなんて、かわいい幼馴染がいるどっかのラノベの主人公かギャルゲーの主人公くらいかと思ってたよ。

まぁ柳と出かけるのは嫌いじゃないからいいんだけどさ。


「お正月から出かけるなんて京君にしては珍しいよね」


おれがそんなことを考えてながら神社までの道を歩いていると、隣にいる柳がそんなことを言ってきた。


「ん、まぁな……」


おれはその問いに曖昧な返事をした。

実は居留守してましたなんて、とてもじゃないが言えない……


「あれ、そこは失礼だな。とか言うと思ってたけど」


だが、柳の指摘におれは心臓を掴まれたような気分になった。

しまった……焦りすぎて、いつもの調子が出てなかった。

ここは冷静に普段のおれを演じなければ……


「お、おれだって出かけることくらいあるからな。それに、たまにはリア充に触れるのも悪くないかと思って」


「ど、どうしたの……?変なものでも食べた?それとも精神が崩壊するくらい嫌な出来事があったとか……?」


だが、焦りすぎて普段の自分を見失っていたおれは斜め上の演技をしてしまったらしい。

柳が心配そうに顔を覗き込んでくる。

っていうか柳、失礼だぞ……

普段のおれをどんな風に見てるんだよ。

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