遅めのプレゼント

「27580円になりまーす」


 レジにて大量の服をせっせと畳みながら、店員さんが商品の合計金額を伝える。


「……」


 遥香は財布の中身を確かめた後、ゆっくりと財布から顔を離し、近くで会計が終わるのを待っていたおれに向かって視線を飛ばしてきた。


「……」


 無言でなんか訴えてきてるな。

 まぁ十中八九、その意味はわかるが。

 ったく、手持ちのことを考えてからカゴに入れろよな……


 遥香は服屋に来た途端、目の色を変えて片っ端から気に入った洋服をカゴに入れていた。

 この服屋は若者向けに良心的な価格で洋服を販売しているので、学生の小遣いでも買えるものも多いが、それにしても買い過ぎだっての。


 しかし、遥香からのSOSを無視するわけにも行かず、何より大晦日の人でごった返しているこの店の中で手持ちがないからやめます。というのは、いくら周りが赤の他人だからといっても、言いたくないだろうし、そんな姿は絶対に見せたくないだろう。


 おれは急ぎ足で遥香の元へ駆け寄ると、ズボンのポケットに入れていた財布を取り出し、親父から借りているクレジットカードを取り出した。

 おれも手持ちがなかったので、こういう時、クレジットカードは便利だ。


「これでお願いします」


「かしこまりました」


 店員さんはおれの出したクレジットカードを受け取り、手慣れた手つきで会計を進めていく。


「ちょっ、いいの……?それにそのカードって……」


 ひそひそ声で遥香が聞いてくる。

 いいのってお前が助けてって視線を送ってきたから、こうして払ってるわけなんだが……

 いや、それよりクレジットカードの方が気になるのか?

 未成年ではクレジットカードは作れないし、どうやら誰のカードかは見当が付いているらしい。


「いいんだよ。普段全然使ってないし、こういう時くらい使ったって文句言われないし、何より明細なんて見てないだろうからな」


「そう……なんだ。って別に全額払ってもらわなくてもよかったんだけど……」


「じゃあ遅くなったクリスマスプレゼントってことにしといてくれ」


「遅すぎだっつーの……それにあんたのお金じゃないし」


 なんて、隣でぶつぶつと文句を言いながら、遥香は少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 その笑みを見て、おれはどこか安心するのだった。

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