褒めてねーよ

 各々、好きなセットを注文して、トレーを受け取ってから席に着く。

 もちろん、向かいあう形で。


「しかし、寒いわよね」


 ポテトを頬張りながら、遥香はそう呟いた。


「寒いなら家にいろよ」


 その言葉にたまらず、突っ込んでしまう。

 コタツでぬくぬく、ゴロゴロしてた方がずっと快適だと思うんだが。

 それに、ここは値段がリーズナブルだし、店内にはリア充しかいない。

 ちらほらと家族連れがいるが、それでも数は少ない。


「う、うっさいわね……!別にいいじゃない……」


「悪いとは言ってないだろ」


「あんたってほんとに減らず口よね……」


「そりゃ、どうも」


 おれにとって、その言葉は褒め言葉みたいなもんだ。


「そこでお礼を言う神経がわからない……」


 遥香は呆れたようにため息を吐きながら、再びポテトを摘んだ。

 おれもそんな遥香を眺めながら、ポテトを摘む。

 しかし、この前の喫茶店の時といい、遥香と話すのは中々楽しい。なんだか昔に戻ったような気分になるからかもしれない。まぁ本人はどう思ってるかわかんないけど。

 それから2時間ほど、店内で他愛もない雑談をした後、店を出る。


「そろそろ帰るか?」


「はっ?まだ昼過ぎじゃん。どんだけ家に帰りたいのよ」


 隣を歩いていた遥香は驚いたように目を見開いた。そんなに驚くことか?

 むしろ、至極真っ当なことを言ったつもりなんだが。


「その引きこもり、直した方がいいと思うけど」


「来世に期待してくれ」


 まぁ来世も望み薄だが。

 それより来世があるなら、ぜひコタツになりたい。それか金持ちに飼われてるネコとか。誰かに養ってもらって暮らすのって最高だと思う。


「話してるだけでバカが感染(うつ)る……」


 呆れたようにため息を吐き、遥香は1人でスタスタと先を歩いていった。

 っていうか、こいつは行き先決めてんのか?またノープランとかなら、勘弁してほしいぞ。

 なんて思いながら、おれは遥香の後にとりあえず付いていくのであった。


 しかし、まぁやっぱりというか、案の定、あてもなく、遥香はフラフラと繁華街を歩いていた。

 時折、店のディスプレイにかかっている洋服に惹かれ、立ち止まるが、慌てたようにすぐに眺めるのをやめてしまう。


 はぁ、わかりやすい奴。仕方ないな……

 おれは溜息を一つ吐いたあと、早足に遥香の隣に並んだ。


「何よ」


 こりゃまた見事に不機嫌そうにムスッとふくれっ面だな。かわいい顔が台無しだぞ。とは口が裂けても言えない。なぜならヘタレだから。もし言えたら表彰ものだ。


「大晦日だからか、安く売ってる服屋も多いみたいだぞ」


「へー。だから?」


「せっかくだから見に行くか?」


「1人で行けば?」


「おれにリア充で溢れかえってる服屋に1人で突撃しろって言うのか?生粋の鬼だな」


 それか困惑してるおれを見て楽しむ生粋のドSかどちらかだ。


「誰が鬼だ」


「鬼じゃないなら1人で行けなんて言わないと思うが」


「……わかったわよ。どうしても見たいって言うなら仕方ないから付き合ってあげる」


「へいへい……ありがとうございます」


 めんどくさくて、素直じゃない奴。

 でも、何故か嫌じゃない。

 つまり、おれは相当なお人好しってことかね……

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