繊細なんだと

「う、うまっ……」


 口に運んだ瞬間、遥香はたまらず、目を見開き、そう声を漏らした。


「そりゃよかった」


 その表情を見て、おれは一安心し、麺をすすった。


「しかし、こんなところにラーメン屋があるなんてね。しかもすごい美味しいし……」


「ふっ。まぁこれもおれが発見したおかげだな」


 たまらず、得意げになる。


「ほんとね……でも、なんでここを知ってたの?学校からは結構離れてるし、ここら辺に来ることなんてほとんどないでしょ?」


「学校終わりに暇だから、適当にぶらぶらしてたら、見つけたんだよ。きっと学校で知ってるやつなんておれくらいだと思うぞ」


 ふふんと誇らしげに威張ってみる。


「あ、そうなんだ……」


 っておい。そんな可哀想って感じの目でおれを見るな。同情するな。そんな目で見られたら泣いちゃうだろ。お願いします、頼むからやめて。


 しかし、まぁ開いてて助かった。

 このラーメン屋は自営で店主のその日の機嫌によって店を開けるか決めているらしく、今日も開いてるかどうかは来てみないと分からなかった。

 つまり、今日がクリスマスイブだからといって、休む店ではないので一か八か賭けに出たのだが、見事賭けには勝利した。


「あー美味しかった……」


 そんなことを考えているうちに、いつのまにかスープまで綺麗に完食していた遥香が幸悦の表情を浮かべた。


 この表情を見ると来て良かったと心から思える。というか、よく考えれば、いや、よく考えなくてもこいつってかなりかわいいんだよな。絶対に美少女の部類に入るクラスで。

 そんなやつと二人きりでラーメン屋に入るってまぁなんというか場違いだな。


「ふっ……」


 たまらず、笑みがこぼれてしまった。

 そんな俺を見て、陽香は怪訝な表情を浮かべた。


「なんだよ」


「何、1人で笑ってんの……?きもいわ……」


「おい、きもいとか言うなよ」


 傷つくだろ。こう見えて繊細なんだからな。


「で、次どこいくの?」


 グラスに入った水を口に傾けながら、遥香がそう聞いてきた。


「そうだな……っておい、お前が誘ってきたんだから少しくらい計画しとけよ」


「あ、そういえばそうね。ごめんごめん」


 てへっと舌を出しながら謝る遥香。

 頭悪そうに見えるからやめといた方がいいぞ、それ。一部にはウケるかもだけど。


「どこか行くって行ってもな……」


 今日はクリスマスイブ。

 どこに行ってもリア充共がはびこっているはず。むやみに出歩くのは危険だが。


「あ、そういえば……」


 と、その時、何かを思い出したかのように遥香がカバンをごそごそと漁りだした。

 そして、中から何かを取り出した。


「ここ、どーよ?」


「ん、これ……」


 遥香が取り出したのは、少し前に新規オープンしたチェーンの喫茶店のチラシだった。

 確か駅前で配っていたものだ。

 そこには、期間内に来店すれば記載されているいくつかのドリンクが格安で飲めるとのことだった。


「期限も切れそうだから、どうせだから行かない?」


「そうだな……」


 喫茶店か……

 こういうところは確実にリア充の溜まり場になっているはずである。

 しかし、このまま帰るのもなんか勿体無い気がするしな。


 ん……?

 勿体無い?

 なんで、おれはこんなことを思うんだ……?

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