現実とは大体こんなもの
時刻は昼の3時5分。
上映が終わった途端、ザワザワと周りから声が聞こえてくる。
映画を観に来ていた人のほとんどは小さな子供を連れた家族だった。リア充はほとんどいなかったので、おれとしては安心して映画を観ることができた。
それにしてもかなり久しぶりに観たが、相変わらず面白い。確か、これの続編もあったはずなので、それも観たくなってきた。
「あー面白かった」
イスに座った状態で、ぐっと背筋を伸ばしながら、遥香がそう感想を漏らした。
「久しぶりに観るといいもんだな」
「うん」
満足そうな笑顔の遥香と共に劇場から出る。
さてと、映画も観終わったし、昼御飯でも食べたいところだな。
「昼御飯食べたいんだが、いいか?」
「あ、うん。あたしもお腹減ってたところ」
「そりゃよかった」
というわけで、遥香の承諾も得たのでおれ達は昼御飯を食べに行くことにした。
エスカレーターを1つ降り、レストランのあるフロアにやってきたところまではよかったのだが。
「まじか……」
「……」
隣にいる遥香も唖然とした表情である。
それもそのはず。
食べ物を提供している店は軒並み、満員。外の列も、もちろん長蛇の列。とてもじゃないが、並ぶ勇気はおれ達にはなかった。
「どうする……?」
困り果てた遥香はおれにそう聞いてくる。
「どうするって……」
そんなもん、おれが聞きたいわ。
しかし、この辺りに食べれるところなんてここくらいしかないし、やはり並ぶしかないだろうな……
「あ」
その時、おれは思い出した。この状況を打破できる唯一の手を。
「一か八か賭けに出る気はあるか?」
微笑を浮かべながら、おれは遥香にそう問う。
「なんか妙に言葉が重いんだけど……でもまぁここにいたってどうしようもないし、任せるわよ」
どこか諦めたような、しかし僅かに望みをかけたような表情で遥香はそう言った。
「よし、じゃあとりあえずここから出るぞ」
「……は?」
遥香は驚いたような表情を浮かべた。
そして、慌てて先に歩き出していたおれの後に続く。
さて、おれ達が幸運でありますように。
おれは心の中で小さく祈った。
それからショッピングモールを出て、近くにある路地を歩くこと10分。
「ねぇ、どこに向かってるわけ?」
不安そうな表情で遥香が聞いてくる。
「もうすぐ見えてくるはず……お、あそこだ、あそこ」
「あそこって……」
おれの視線を追うように遥香は辺りに目を向ける。そして、目当ての場所が分かったようで軽く微笑んだ。
「賭けには勝ったみたいね」
「いや、まだ油断はできない」
そう言ってからおれは再び歩き出した。
そう。外に列がないからといって、安心するのはまだ早い。今日はクリスマスイブ。
そもそも店をやってないという可能性も十分あり得る。
おれ達は目当ての場所に遂にたどり着き、おれは店のドアに手をかける。
さて、開いてくれよ……
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