隣にいるから

 とりあえず繁華街までやってきた。

 やはりクリスマスイブだからか、リア充どもがそこかしこにいやがる。


「……」


 幸せオーラ全開で人前にいるのにベタベタベタベタしやがって……

 全く発情期のサルですか、この野郎。


「ちょっと」


 心の中の炎にウォッカを注ぎ始めた時、横にいた遥香がおれの背中をどんと叩いた。


「なんだよ」


「目つきが犯罪者なんだけど」


「ほっとけ。生まれつきだ」


 人様に迷惑はかけてないから安心してくれ。迷惑かけたくないから、ずっとぼっちなんだよ。

 もしかして、これも生まれつき?


「はぁ……一応、隣にあたしもいるんだからね……」


「あ、ああ……」


 その一言でおれの炎は一気に鎮火した。

 少し前の遥香なら呆れて一人で家に帰るか、どこかに勝手に行ってるだろうな。

 それがここまで変わるとは……

 仕方ない。今日くらいはおれも大人しくしておくか。

 せっかく二人で出掛けるなんてレアルートに入ったんだからな。

 さて、このルートの結末がバッドエンドにならないように気を付けよう。


「さて、で、どこに行こっか」


「やっぱりノープランですか」


 ま、わかってたことだけどな。

 しかしまぁ目的もなく、歩くのも勿体ないし、何より寒い。

 とりあえずどこかに入りたい。


「なんかやりたいこととかないのか?」


「やりたいこと……か……」


「まぁ無理に考えんでもいいけど」


 但し、カラオケとかなら却下だな。

 あの空間で二人きりでなんか歌うとかもう拷問の域だわ。

 せめて、歌唱力があればいいんだけど、残念ながら皆無ですから。


「あ!じゃあ観たい映画があったの!」


「映画か……」


 いや、待てよ。この時期にやってる映画なんてラブロマンスか子供向けのアニメ映画だよな。

 これは、どれを選んでもバッドエンドルートか?

 くそ、まさかの選択ミスったか……?


 ヒヤヒヤしながら、遥香とともに映画館へと向かう。

 映画館はクリスマスイブということもあり、そこそこ混んでいた。リア充どもだけではなく、家族連れや学生のグループも大勢いた。


 さて、と。で、一体こいつは何を観たいのかね。


「じゃあチケット買ってくるから」


「おう。頼んだ」


 財布からチケット代を渡し、少し離れたところで待つ。

 しかし、まぁ混んでやがるな。

 機械の端末からチケットを発券できるとはいえ、列はかなり長い。

 ここにずっといるのも、何だし、おれは売店で食べ物でも買っておくか。

 それより、遥香が観たい映画の内容の方が気になるが、まぁどんなものにせよ、観るしかないか。

 そんなことを思いながら、おれが売店でポップコーンと飲み物を買ってきてから5分くらいで遥香が帰ってきた。


「お待たせ……ってそれ、買ってきてくれたんだ?」


「一応な。飲み物はコーヒーでいいよな?」


「う、うん。大丈夫。ありがと……」


 言って、遥香はケースに入っているコーヒーのカップを取り出し、ゆっくりとそれに口を付ける。


「で、観たい映画って何なんだ?」


「あ、うん。これ」


 コーヒーを元の位置に戻し、手に持っていたチケットをおれに渡してくる。


「これ……」


 チケットに記載されていたタイトルはおれ達がまだ生まれていない時に公開されたものだった。


 これって確か、30年くらい前にアメリカで爆発的にヒットした映画で、最近HDリマスターとして、上映されてるやつか。

 当時としては驚異の3Dで構成されたアニメで、おれもテレビなんかで何度か観たことがある。


「懐かしいな」


「でしょ」


 おれはチケットを見つめながら、当時のことを思い出し、たまらず微笑む。


 おれらがまだ仲の良かった小学生の頃、クリスマスになる度にこの映画を親にせがんで借りてきてもらって、毎年観ていた。

 この映画には友情と仲間の大切を教えてもらった気がする。残念ながらおれには仲間と呼べるものがいないので、友情なんてかなり前から無くなってしまったわけだが。


 いつか、あの頃のようにおれ達はまた仲良くできるようになるのだろうか。

 ふと、そんなことが頭をよぎっていった。

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