ご機嫌だそうで

 ロングホームルームも終わり、おれはカバンを掴んで教室を出る。

 これにて待ちに待った冬休みとなったわけだが。

 教室を出る際にチラッと遥香の顔を覗き見る。というのも、告白の後、教室に戻ってから様子を見てみたが、なんだかあまり元気がないというか、どことなく暗い感じだった。


 どう返事をしたのかおれは知らない。

 全てを見てしまうのは悪い気がして、こっそりと気づかれないように教室へと戻った。

 リア充どもが相変わらず、クリスマスとかの計画を話してたと思うが、ほとんど頭に入ってきていない。

 今までは赤の他人の告白だから、何とも思っていなかったが、友達……いや、知り合いの告白だとこんなに色々考えるものなんだな。


「ふぅ……」


 頭の中で色々と考えながら、ようやく家に着き、ため息を一つ吐いた後、カバンを部屋に置き、リビングに降りてから、とりあえず昼御飯の準備をする。

 そして、もうすぐ出来上がるというところで玄関のドアが開く音がした。どうやら、遥香が帰ってきたようだ。


「あーお腹すいた」


 遥香はリビングに入ってくるなり、そう言ってカバンをソファに置いた。


「もう少しでできるから」


 フライパンの中の食材をかき混ぜつつ、口を開く。今日は簡単に済ませたくて、チャーハンを作ってみた。


「あーそうなんだ。ありがとう」


「……」


 あ、ありがとうだと……?

 おれは変な夢でも見ているのか?

 こいつがおれに礼を言うなんて……

 きっと明日地球には隕石が飛来するに決まっている……

 それかエイリアンの襲来が来るに違いない……

 たまらず、フライパンを握っている手がカタカタと震えてしまう。


「ちょっと、どうしたの?」


「い、いや、なんでもない……」


 理由はわからんが、どうやら遥香は今、ものすごく機嫌がいいらしい。

 それを失礼なことを考えてるとわかって、台無しにするのはマズイ……


 おれはごくっと喉を鳴らしながら、出来上がったチャーハンをそれぞれ皿に無駄に緊張しながら盛る。

 さて、昼御飯、チャーハンで大丈夫なものか……

 おれは震える手を必死に抑えながらと皿をテーブルの上に置き、イスに座った。


「いただきます……」


「いただきます」


 そして二人揃って手を合わせる。

 いつも遥香はおれの対角線上のイスに座っているのに、今日に限っては何故かおれの目の前に座っている。


 何が起きているんだ、一体。

 もしかして、目の前にいるこの遥香は遥香ではなく、別のナニカなのでは……

 双子の妹、ドッペルゲンガー、影分身……

 それとも、おれはいつの間にかパラレルワールドにでも飛ばされてしまったのか?

 くそ、一体どれなんだ……

 可能性があり過ぎて、絞りきれない。


「ねぇ、何か失礼なこと考えてない?」


 カチャカチャと軽快にスプーンを口に運んでいた遥香が、手を止めてジト目でそう聞いてくる。


「い、いや!別に!」


 慌てて、そう言い繕う。

 しまった……

 おれとしたことが、考えていることが顔に出てしまったか……

 こういうときはポーカーフェイスが鉄則なのに。

 激しく後悔しながら、とりあえず無心にしてスプーンを動かす。


「まぁいいけど。あ、そういえばさ、あたし、今日告白されたんだ」


「ぶっ……!!?」


 予想外の言葉におれは吹いてしまう。


「ちょっと何やってんのよ、汚いから」


「いやいや、それよりいきなり何言い出すんだよ……」


 とりあえず台拭きで吹き出してしまったものを拭く。

 こいつ、一体マジで何なんだ……?

 告白されたことを自分から言い出してくるなんて……


「いや、どうせそのうち誰かから聞くだろうと思ってさ」


 冷静な様子でそう言ってくる遥香。


「誰かって誰だよ」


 ぼっちのおれに話しかけてくれる奴なんていないんだけど。

 あれか?もしかして、見えない友達とかってことか?

 生憎だが、おれはそこまで落ちぶれちゃいないぞ。

 そういや、昔読んだ本でそんな設定のヒロインいたな。


「あ、ごめん……」


「ぐっ……謝るなよ……」


 悲しくなってくるだろうが……

 涙出そう……


「ま、とりあえずそういうことだから」


 遥香はいつの間にか食べ終わっていたチャーハンの皿を台所まで持っていく。


「お、おい。急に話を完結させるなよ」


 しかし、おれの言葉は聞こえているはずなのに、何も応えず、遥香はそのままリビングから出ていってしまった。

 くそ、まじであいつのことがわからない……

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