3章

ゆとりなんて

 12月23日。

 今日で学校は終わり。明日から冬休みが始まる。

 終業式も終わり、あとはクラスでのロングホームルームだけとなったのだが。


「……」


 全く、どこもかしこも浮かれてやがる。

 明日から冬休みに入るからってわけではない。クリスマスが間近に迫っているからだ。

 そこかしこで明日どこに行くだとか、何をするだとか、そんな話ばっかりだ。

 そして、クリスマスが終われば大晦日に元旦もあり、その話でも盛り上がっている。


 くっ……教室にいるだけで苦痛だ……

 なんで赤の他人の冬休みの予定なんぞ聞かなきゃならんのだ。知ったところでおれ、いないからね、その場に。

 大体、終業式が終わってからすぐにロングホームルームを始めればいいものの無駄に20分の休憩なんて挟むから、こうなってしまうんだ。

 やっぱりこういうゆとり教育は良くないよね、うん。


「はぁ……」


 おれはため息を一つ吐いたあと、イスから立ち上がり、教室から出ていった。

 ロングホームルームが始まるまであと15分もある。始まるギリギリに帰ってくるか。となると、あとはどこで時間を潰すかだ。

 まぁ場所は最初から決まっているけどな。

 目当ての場所に向かうため、おれは階段を下っていった。


「ふぅ……」


 自販機で買ったばかりの缶コーヒーをすする。

 程よい温度が冷えていくおれの身体を暖めてくれる。

 いつも通り、中庭の端にやってきたのだが、やはり全く人がいなかった。ここ、風が通ってて寒いからな。

 わざわざ、寒い場所に来る物好きなどいないだろう。

 それにしてもここは平和でいい。おれの心を落ち着かせてくれる。


「ん?」


 と、ようやく平和になったと思った時、遠くから誰かが来る気配がした。

 ったく、誰だよ……

 おれは恨みったらしく、そちらの方に目を向ける。

 やってきたのは2人。男子と女子、1人ずつ。

 その2人はおれのいる場所には来ず、少し離れたところで立ち止まった。


「あれは……」


 思わず、目を見開く。

 やってきた2人のうち、1人はなんと遥香だった。もう1人の男子は見たことがない。

 少なくとも、うちのクラスの男子ではなさそうだ。


 2人は何やら真剣な話をしているようだが、この距離では何を話しているのか上手く聞き取れない。

 時折、遥香が俯いているのが目につく。


「はぁ……」


 言っておくが、おれは鈍感な方ではない。

 むしろ、敏感な方だ。

 だから、何を話していたのかは大体見当がつく。

 それにあんな顔してる2人が話すことなんて決まっている。


 なんだっておれはこういう現場に居合わせる運命なのかね。むしろ、宿命?

 中学の時も毎年見ていたしな。

 おれには全く縁のない世界なのに。


「はは……」


 思わず、自虐的な笑みがこぼれてしまう。

 というか、クリスマス前に告白とか王道過ぎだろ。

 ここで告白してOKもらって、で、クリスマスにデートしてノリでチューとかしちゃうやつですか、そうですか。

 ったく、そんなのを見せられるおれの気持ちも考えろよ……

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