おれと彼女は

「……」


 家の玄関を目の前にして、未だに入れずにいる。

 このシチュエーション、前にもあったよな。

 ったく、なんでこんなことばっかりなんだよ……

 携帯を開くと時刻は夜の9時過ぎ。

 恐らく、遥香はもう先に帰ってきていると思う。

 さて、どんな顔して家に入ればいいものか……

 別に悪いことはしてないんだけどな。

 なんか隠し事してて、それが親にバレた時みたいな感覚に近い。

 中学校のとき、学校サボったのがバレて父さんに注意されたことがあったっけ。

 サボった理由を聞かれたけど、まさかクラスでぼっちだからとは恥ずかしくて言えないから、勉強がめんどくさいとか適当に言って、誤魔化したっけ。

 くっ、余計なことを思い出してしまった……


「はぁ……」


 おれはため息を一つ吐いたあと、意を決して玄関のドアを開けた。

 そして、迷うことなくリビングへと向かう。

 リビングのドアを開けるとそこには案の定、遥香がソファに座っていて、携帯をいじっている。

 もちろん、部屋着であるジャージに着替えていた。うん、やっぱりジャージだよね。味方がいてよかった。


「おかえり」


「お、おう……」


 予想外の一言に少しだけ戸惑ってしまう。

 まさか、こいつから、おかえりなんて言ってくるとはな。初めてだぞ。


「まさか、あんなところで会うなんてね。少しだけびっくりした」


「それはこっちのセリフだ。なんて声かけていいか分からなかったぞ」


 言いながら、テーブルイスに座って買ってきたペットボトルのお茶のフタを開ける。

 いつの間にか、遥香は携帯をいじるのをやめていた。


「でも、結局声をかけなかったわけね」


 意地の悪い笑みを浮かべる。


 ぐっ……こいつ、おれの立場知ってんだろ……

 遥香の周りにはクラスのやつらがいて、声をかけたところで場の空気を悪くするだけだった。というより、どうせ、おれのことなんて覚えられていないだろうし。


「一緒にいたの柳でしょ?仲良かったんだ。あんたら」


「まぁ……な。色々あって」


「そう……」


 それだけ言って、遥香は携帯を再び、いじりだした。


 こいつとは、ここにきてようやくまともな会話をした気がする。きっかけはわからんが。

 にしても、ファミレスでおれを見つけたときの遥香の顔が妙に印象的だ。

 なんというか、少しだけ寂しそうというか……

 ってまぁ都合よく考えすぎだよな。

 遊んでて疲れてたとかそんな所だろう。気にしないようにしよう。

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