おれ死んじゃう

 とりあえず出かけられる格好に着替えてから、2人揃って家を出る。


「それじゃ、行こっか」


「……ああ」


「うっわ、テンションひくっ」


 ほっとけ。

 今日くらいは家で過ごせると思ったんだよ。全くなんでわざわざ、この寒い中、出かけなきゃならんのだ。


「はぁ、私じゃダメってことかな……」


「ん?なんか言ったか?」


「な、なんでもないから!それより、ほら!早くいこ!時間ないし!」


 柳は慌てたように急に道を歩き出した。


「あ、ああ……」


 どうしたんだ、いきなり……

 こいつ、意外に一人言とか呟くタイプなのかも。

 そんなことを思いながら、おれは玄関のドアに鍵をかけてから柳の後を追いかけた。


 そして歩くこと20分。アウトレットモールに辿り着く。

 着いた途端、柳はあちこちの店に入り、服を物色していった。当然、振り回されるおれ。


「いやー、満足満足」


 柳はホクホク顔で受け取ったばかりの袋を胸に抱える。


「よかったな」


「うん!来たかいがあったよ」


 無邪気な笑顔で面と向かってそう言われ、おれはたまらず、恥ずかしくなってしまい、柳の顔から目線を外してしまう。

 今のは、かなりかわいかったな……

 いや、まぁ普段もかわいいんだけど。って何考えてんだ、おれ。


「それより、そろそろどこかでなんか食べないか?腹ペコだわ」


 そっぽを向きながら、提案する。

 先ほど、店にかかっている時計を見たら、夕方の5時25分だった。

 結局、家ではチョコしか食べていないから、そろそろなんか食べないとマズイ。

 このままじゃ、おれ死んじゃう。


「そうだね。私もお腹すいてきたよ。どこにいこっか」


 柳も自身の腹を抑えて空腹をアピールする。


「ここらへんに食べれる店とかあるのか?」


 来たことないからどういう造りか、よくわからないんだよな。


「一応、レストランがいくつかあったと思うんだけどね」


「レストランか……」


 今日はあまり持ち合わせがないんだよな……だから、なるべく安いところがいいんだけど……


「あ、あそこなんかどう?」


「ん?」


 柳の指差す方に目を向ける。

 その指先には手持ちの少ない人間にもありがたい、リーズナブルな全国チェーンのファミレスがあった。


 店に入り、席へと案内されてすぐにおれはメニューを頼みまくる。

 そして程なくして頼んだメニューが順番に運ばれてきたので、おれは夢中で食べまくった。


「あー食った食った」


 満腹になった腹を満足げに手で叩く。


「めちゃくちゃ食べてたね。さすが、男子」


「まぁな」


 普段ならこんなに食べないが、今日は朝から何も食べてなかったからな。

 しかし、さすがにサラダにハンバーグ、ピザ、デザートにショートケーキってのは食い過ぎたかな。腹が結構苦しい……


「それより、このあとはどこに行く?」


「え、まだどこか行くのかよ」


 完全にこのあと、帰宅パターンだと思っていたんだが。

 頭の中でどう帰ればベストかシミュレーションしてたし。


「え、帰るつもりでいたの……?」


 じとっとした目でおれのことを睨んでくる。しまった、罠にはめられた……


「いや、時間的に親御さんが心配するだろ?だから……」


 とりあえず正論っぽい言葉を並べてみる。

 これで誤魔化せれば……


「いや、まだ7時にすらなってないんだけど。それにうちの親、結構自由だから10時くらいまでは大丈夫だよ」


 しかし、おれの目論みはあっさりと崩れ去った!!


「はぁ、悪かったよ……で、どこに行くんだ?」


「そうだねぇ……」


 と、柳が建物の地図が掲載されたマップの冊子を広げた時だった。


「あ……」


 少し離れたところに見知った人物を見つけた。

 その人物を見つけたとき、反射的に声が出てしまった。

 そしてその人物も運命なのか、偶然なのか、おれを見つけた。

 お互い、視線を交差させながら、固まってしまう。

 これは憶測だが、見られたくない部分をお互い見てしまったからだと思う。

 どうすればいいのかわからないのだ。


「ねぇ、いきなり固まっちゃってどうしたの?食べすぎて気分悪いとか?」


 そんなおれをみてか、テーブル越しに柳に肩をトントンと叩かれる。


「いや、なんでもない。大丈夫……」


 素っ気なくそう応えてしまう。

 驚いた。まさか、こんなところで遥香と会うなんてな。

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