なんだこの生き物

 とりあえず外に居させるわけにもいかず、柳を家に上げる。

 なのに、何故かおれは正座させられていた。柳はこたつに入って、温もっている。フローリングが異常に冷たく、このままでは足が凍傷になってしまいそうだ。


「それでなんで無視したの?」


「いや、だから無視っていうか気づかなかっただけなんだって……それに携帯、手元に無かったし……」


 おれはなんとか弁解を試みる。


「気付かない……ねぇ。すごく便利な言葉だよね、それ。でも、まぁ家に上げてくれたわけだし、今回は大目に見てあげるよ」


 柳はため息を吐きながら、やれやれと言った様子で肩をすくめる。

 おれ、なんも悪いことしてないんだけどな……なんか無駄に罪悪感。


「悪かったよ……それより、あんなにメールしてきて、何の用だ?」


「ああ、うん。どうせ暇だろうから、良かったらどこかに出かけようよって誘おうと思って……」


「暇なこと、前提かよ……」


 まぁ実際、暇なんだけどさ。

 それにしても、こいつもよくもまぁ休日に出かけようなんて考えるもんだ。

 休日に出かけたって、どこもかしこも人だらけで混んでいるのに。

 おまけにリア充どもも、そこら中に溢れかえっている。出かけたところで何もメリットがないのに。


「出かけるって、どこに行くんだ」


 ようやく正座から解放されたので、台所へ向かい、コーヒーを二人分作り、それを運ぶ。


「駅前のアウトレットモールに行きたいんだー。冬物の服が欲しくて」


 アウトレットモールか。

 結構前に出来たはずだが、未だに行ったことないわ。そもそも、行っても用ないし。


「ていうか、それより前に京君の服装をどうにかしたい」


「は?なんでだよ」


 おかしなところなど一つもないはずだが。


「上下ジャージって、部屋着だとしても引くわ……もう少し、ましな格好してよ」


 ジトっとした目でおれの格好を見てくる。


「これが一番動きやすいんだよ!」


 部屋着なんだし、いいじゃん!

 なんだったら、遥香も家にいるときはジャージ姿だし!


「そういうお前はどうなんだよ」


「私?私は普通だよ。ジャージなんて持ってないし。わりかしオシャレだと思うけどな……」


 そう言って、自分の今の姿を見直す。


 柳はチェックのシャツにカーディガン、下はタイツにスカート、コートはダッフルコートを羽織っている。

 まぁ確かにオシャレだと思う。よく似合ってるし……


「私、変かな……?」


 上目遣いでそんなことを聞いてくるもんだから、おれの心臓はどくっと跳ねた。


 やべ……一瞬、かわいいと思ってしまった。

 だが、面と向かって言えない!おれのヘタレ!!


「まぁ、その似合ってるとは思うぞ……」


 そっぽを向きながら、素直に感想を伝える。言ってるそばから、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。


「ほんと?よかったー……」


 ホッとしたように小さく笑みを受かべながら、柳は胸を撫で下ろした。


 ぐっ……なんですか、この生き物。まじでかわいいんですけど。いっそのこと、告白しちゃいますか。どうせフラれるんだろうけど。

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