出過ぎだろ、おい

「「……」」


 2人がけの席に座り、無言で黙々とメダルを投入していく。

 おれ達がゲーセンに来てから既に2時間が経過していた。

 辺りも既に暗くなっている頃だろう。

 自販機で買ってきたジュースも既になくなり、2本目もまもなく無くなろうかというところだった。

 しかし、時間は経っているのにメタルが全然減っていない。むしろ、着々と増えている。


「減らねぇな」


「そうだね……あ、また当たっちゃった……」


 理由は単純。

 柳が当たりを次々と引き寄せるのだ。いわゆるビギナーズラックってやつ?

 確率なんて無視して、とにかく当たりが出てくる。

 一方のおれは中々アタリがこないので、柳からメダルをもらってはそれを投入しているのだが。


「無くなる気がしねぇな……」


 もはや、遊んでいるという感覚がない。

 いつの間にか、無心でメダルを流し込むという作業になっている。柳とおれ、まさに需要と供給が成り立ってしまっている。


「どうしよっか……」


「よし、仕方ない」


 おれはカップに山盛りに積まれたメダルを手にすると、ゆっくりと席から立ち上がり、同じ階にある受付まで向かった。


 最近のゲーセンでは共通だと思うが、消費できなかったメダルを預けることができる。

 いわば、ゲーセンの銀行みたいなものだ。

 専用のカードを作れば、次からは両替機でメダルを引き出すことができる。

 便利なシステムだ。


「これくらいなら5分くらいで消費できるだろ」


「あ、うん、そうだね……」


 元の席に戻り、柳が持っているカップを覗き込む。ざっと見た感じだが、50枚程度、残っていた。これなら、消費できないこともないだろ。

 そしておれの予想通り、メダルはすぐに消費でき、おれと柳は晴れてゲーセンから解放されたのであった。


「すっかり暗くなっちゃったね」


「そうだな……」


 ゲーセンを出ると思っていた通り、辺りはすっかり暗くなっており、ちらほらと街灯が付いている。

 携帯の時刻を見ると夜の6時40分だった。


「それじゃ帰ろっか……」


「おう……」


 二人揃って道を歩く。が、特に会話をするわけでもなく、お互い無言のまま、歩く。理由はただ一つ。


 何て会話すればいいかわからねぇ!!

 長らく、ぼっち生活だったせいで簡単な会話の仕方を忘れてしまった。学校でどんな会話してたっけ、おれら……


「……」


 柳も特に口を開くことなく、俯きながら道を歩いている。


 なぜ、人は他人の心を読むことができないのだろう。心さえ読めれば、こんなに苦労することはないのに。

 そして、おれがぼっちになることもないのに。


「あ、私、こっちだから……」


 おれが都合良く、テレパシーを開花させようとしていた所に柳が話しかけてきた。

 我に返るといつの間にか、別れ道に来ていた。


「あ、ああ……暗いから良かったら送るぞ」


「い!いや、いいよ!私の家、ここから少し遠いからさ……」


「そ、そうか……」


 即座に断られた!悲しい!

 しかも、結構声でかかった!おれに送られるまでもないってことか。ですよね、ぼっちですもんね、私……ぐすん。


「それじゃ、気を付けてな……」


 右手を肩の辺りまで上げ、柳がその場からいなくなるのを確認してから、おれは踵を返して歩き出した。冬の風が強くて、寒くて、まるで心まで冷やしているかのようだった。

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