あだ名とか


「早いね、もう学校から出てたなんて」


「まぁな」


 正門前に柳がいたので、そこで合流する。

 他の生徒達もちらほらと下校し始めている。もちろん、リア充どももいる。

 なんで人間の視野は180°近くあるのだろう。嫌でもリア充どもが目に入ってしまう。

 カメラみたいにズームできたらいいのに。


「それじゃ、どこにいこっか?」


「誘ったくせにノープランかよ」


「いや、そこはそっちが考えておいてくれるパターンなんじゃないの?」


「はぁ?なんでおれが?」


「い、いや、それはだって、で、デー……」


「でー?」


「なんでもない!!いいから、とりあえず繁華街まで行こう!」


 柳は顔を隠すように俯かせたあと、急にズンズンと歩き出す。


「変なやつ……」


 聞こえないようにボソッと呟きながら、おれはその後に続いて歩き出した。

 そして、歩くこと20分ほど。

 とりあえず繁華街までやってきた。

 辺りにはリア充どもが。当然、うちの生徒達もちらほらといる。


「……」


 目を細めながら、道を歩く。


 くそ、なんだってこんなところに……

 この時期は家に籠って、ネットサーフィンが鉄則だってのに。

 それに行くにしても、もっと違うところに行けば良かった。

 たまらず、握りこぶしを作ってしまう。


「なんでさっきから怖い顔してんの?」


 すると、横にいる柳が不思議そうな目でおれのことを見てきた。


「荒ぶる心を必死に押さえてるんだよ」


「何それ?」


「お前にはわかんねぇよ」


 ぼっちの気持ちなんてな。

 まぁわかる必要もないけど。

 柳はゴシップに関しては全校生徒の驚異とまで言われているそうだが、童顔な容姿もあってか、そこそこ人気のある女子だと遥香から教えてもらった。ということは、こいつもリア充になる可能性を秘めている。いわゆるリア充候補生なわけだ。


「それより外にいるだけだと寒いし、あそこに入ろうぜ」


「あそこ?」


 そう言って、柳はおれの指差した場所に目を向ける。


「京君、ないわ……」


「おい、哀れみの目でおれを見るな。そして肩に手を置くな。ていうか京君ってなんだよ」


「え?京介だから京君って。あだ名だよ」


「あだ名……」


 まさか、高校に入ってぼっちのこのおれにあだ名が付けられるとは……

 夢にも思っていなかったぞ。

 たまらず、目頭を抑えてしまう。


「あれ?どうしたの?」


「いや、なんでもない……少し感動していただけだ」


「はぁ……?まぁ何でもいいけど。それより、あそこに入るの?」


「おう。もちろんだ。暖かくて、広くて、おまけにタダだぞ」


「確かにタダだけど……まぁいっか……」


 諦めたように柳はため息を吐いた後、再び歩き出したのでおれもそのあとに続き、店内へと入る。


「あー、思ってはいたけど、うるさいね……」


「何を言うんだ。この音がむしろ心地いいんだろうが」


「ウソでしょ……」


 柳は呆れたように項垂れる。


 おれ達がやってきたのは、繁華街にある大きなゲーセン。

 ここなら金もかからず、長時間いても誰にも文句を言われない。かつリア充も少ない上に暖房も効いているので暖かい。

 現に一階のUFOキャッチャーとプリクラが置いてあるコーナー以外にはリア充どもはほとんどいない。

 ここなら、おれの心が荒ぶることもない。


「で、何やる?」


 とりあえず2階のメダルゲームコーナーのところに上がってきたわけだが。


「いや、私そんなにゲーセンに詳しくないから適当なのでいいよ」


 柳は元気なさそうにして、近くの席に座る。


「そうか。じゃあメダルでいいか」


 おれは近くにあった両替機にお金を入れ、メダルを作る。とりあえず300枚くらいあればそこそこ遊べるか。


「ほれ」


 おれはカップに入ったメダルを柳に渡す。


「これ、お前の分な」


「あ、ありがとう。あ、お金……」


 柳は慌てて、カバンに入っているのであろう財布を取り出そうとする。


「いいよ。おれが勝手に作っただけだから」


 それにこれでリア充どもを見かけなくて済むと考えれば、安いものだ。


「あと自販機で何か買ってくるわ。何がいい?」


「あ……じゃあ、紅茶が飲みたいかな……」


「了解」


 返事をすると、おれはトイレの近くにある自販機まで向かった。


「なんだ、意外に気配りできんじゃん……」


 そんな言葉が後ろから聞こえた気がするが、恐らく気のせいだろう。

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