運動不足

「はぁはぁはぁ……」


 荒い呼吸を繰り返しながら、地面にへたりこむ。


「全く、何やってんだよ……」


 未だに痛むわき腹を抑えながら、横にいる奴の頭を手で軽く叩く。


「……」


 柳は先程からボロボロと大粒の涙を流しながら、俯いていた。

 かなり危なかったが、なんとかギリギリのところで手が届き、こいつを歩道側に引き戻すことができた。


「はぁ、立てそうか?」


 ようやく呼吸が落ち着いてきたので、起き上がる。


「……」


 柳は俯いたまま、頭を縦に振った。

 そして、立ち上がったと同時に頭を思いっきり、下げてきた。


「え、急にどうした……?」


「いや、その助けてくれて本当にありがとう……」


「ああ、もうあんなことすんなよ……」


 毎回毎回助けるなんてことできねぇからな。スーパーマンじゃねーし。

 そもそも、スーパーマンならこんなに苦労して人助けなんてしないだろうしな。


「うん。それからあなた達のことはもう追わないことにする……」


「ん、急にどうしたんだ?」


 その言葉に少しだけ、驚いてしまう。

 なんせ、あれだけ嬉しそうに格好のネタを手に入れたって言ってた奴が急に態度を変えたからだ。


「その……助けてもらったお礼……」


 少し照れたように、そっぽを向く柳。


「そ、そっか。まぁこっちとしてもその方が助かるけど……」


 その仕草にどきっとしてしまう。

 急に女の子らしくなりやがったな……

 さっきまで大股で走ってた奴が……


「とにかくありがとう……」


「あ、じゃあもう一つお礼がてら聞いておきたいんだが、どこでおれ達のことを聞いたんだ?」


 そこが一番気になるところなんだ。


「あ、それは……あなたが門川さんの家に入って行くのをあなたのクラスメイトが見てて、で、あなたはぼっちのはずだから、これはなんかあるはずだって私のところに来たのがキッカケ……」


「あ、そうなんだ……」


 おれがぼっちなのがそもそもの発端かよ……

 いろんな意味で悲しいわ。全く。


 おれがへこんでいると、ペコリと頭を下げた柳はおれの元から走り去っていった。

 まぁとにかく何もなくてよかった。

 あんな体験、二度とごめんだ……


 とぼとぼと歩きながら、学校へと向かう。

 その後、おれは日直なのに遅刻したので、そのことを担任に注意されるのだった。


 はぁ、あれだけ全力疾走したのに遅刻って、全くついてないな……

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