一歩先へ
翌朝。午前7時半。
いつものように支度を済ませ、遥香より先に家を出る。
今日はおれがクラスの日直なので、早めに家を出る必要があったのだ。
ガチャっと玄関の扉を開ける。と、ほぼ同時に目の前でシャッターを押すデジカメの音が聞こえた。
「これは動かぬ証拠ね……」
デジカメのプレビューを確認しながら、静かに呟く柳。
まさに格好のネタを手に入れたと言わんばかりに、その顔が僅かばかり、ほくそ笑んでいた。
「こいつ……」
昨日の今日でもう行動してきやがった。
昨日は納得したような素振りしてたのに……
っていうか、この時間にここにいるなんて、一体いつから張り込んでたんだよ。
本当にプロのメディアみたいなやつだな……
「やっぱり、二人は同じ家に住んでいたのね。早く学校に行って記事にしなきゃ……!」
柳はデジカメを肩から下げていた通学用のかばんに急いで仕舞うと、一目散に駆け出した。
「お、おい!ちょっと待て、話を……!」
それを見ておれも慌ててその後を追うように走り出す。
「ダメダメ!今更言い訳なんて結構!」
「言い訳じゃねーって!とにかく説明を……」
誤解をされたまま、記事にされるなんて冗談じゃない!
何より、おれのせいで記事にされたとわかったら、遥香に何をされるか……
想像しただけで恐ろしい……!
「っていうか、足早いな!!」
さっきからずっと走っているのにおれと柳の距離は全く縮まっていなかった。
むしろ徐々にだが、距離が開いているようにすら感じる。
「こんなかけっこは慣れたものよ!女だからって甘く見ないで!」
「く、くそ……」
やべ、いきなり走ったからわき腹痛い……
しかも、家では大体引きこもりだったから体力もないし……
迂闊だった。眼鏡をかけてるから、てっきり文化系かと思っていたが思いっきり、体育会系じゃん……
くそ、もう学校についてしまう。
万事休すか……!
「ふふ、私の勝ちね!」
柳はおれの方を向きながら、勝ち誇ったように笑い声を上げる。
後は横断歩道を渡れば、すぐ目の前が学校だ。
だが、最後の最後に天はおれに味方をしてくれた。横断歩道の歩行者側の信号が赤になったのだ。
渡れると思っていた柳は慌ててブレーキをかける。
チャンス!今のうちに!
おれは痛むわき腹を抑えながら、意地でペースを上げていく。
「くっ……!」
おれと柳の差はぐんぐんと縮まり、もう少しで手が届くというところまで縮まった。
「掴まるわけには……!」
だが、柳はおれに掴まるまいと信号が赤のまま、渡りだした。
伸ばしたおれの手が空を切る。
「ば、ばか!!」
慌ててそう叫ぶ。
「ふふん。私の勝……」
そこまで言って、柳は口を開けたまま、声を発することはなかった。
何故なら、自身のすぐそばまでトラックが迫っていたからだ。
「くそ……!」
おれは歯をギリッと噛み締め、全力で走り、可能な限り、精一杯、手を伸ばした。
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