お出かけ

 週末。昼の11時頃。


「いやー、やっぱ我が家は最高だな!」


 帰ってきて早々、荷物を床に放り投げ、昌樹さんがリビングで転がりだす。子供か、この人は。


「あなた、それ毎週言ってますよ」


 相変わらず、のほほんとした様子の京香さんが昌樹さんの荷物を拾いながら、つっこむ。

 手つきが慣れてるから恒例行事なんだろうな、これ。


「いやー、だってなぁ!愛しい娘に将来の息子がいる我が家に帰ってきたんだ!嬉しくならないはずがないだろう!!」


「愛しい娘は理解できるんだけど、将来の息子ってのは間違ってると思うよ」


 おれの対角線上のイスに座り、ずずっと淹れたてのコーヒーをすすりながら、遥香が口を開いた。

 うん。やっぱり否定されるよね。分かってましたよ。いや、おれも遥香と結婚したいなんて微塵にも思ってないけどね?


「ええ!!まさか……!そんな……」


 その言葉にショックを受け、急に丸まり出す昌樹さん。その大きな身体がアルマジロみたいになっていく。これで転がったりしたら結構な破壊力になるんじゃないのかと思う。

 人間キャノンボールってやつ?


 っていうか、この人、こんなキャラだったっけ?

 昔はもっと真面目な感じだったのに、時の流れの中でいつのまにかボケキャラになってる。


「まぁまぁ。それについては追々ということにしましょう」


 いつの間にか荷物を片付けていた京香さんが昌樹さんを宥める。その姿はまさに母親といった様子だった。


「そうだな!」


 目にも留まらぬ速さで立ち上がる。

 立ち直り早いな、おい!


「よし!それじゃ、出掛けよう!」


「「はっ?!」」


 突然の言葉におれと遥香のすっとぼけたような声がシンクロし、リビングに響き渡った。






 ◆









 そして、車を走らせること1時間。


「久々だなー!!」


 運転席から降り、昌樹さんは大きく背を伸ばしながら、そう言った。


「そうねぇ。5年ぶりくらいかしら?」


 それに続くように助手席から降りた京香さんが口を開く。


「……」


 そんな二人に対して、後部座席から車を降りた遥香は終始、あまり面白くなさそうといった表情で腕を組んでいる。まぁ無理もないと思う。

 かくいうおれも展開が急すぎて、上手く飲み込めていない。


 というのも、昌樹さんと京香さんは帰ってきて早々、出掛けると言い出したのだ。

 しかもショッピングモールなどの買い物ではなく、なんと遊園地に来ている。

 門川家から車で1時間ほどのところにある遊園地。名前はディスティニーアイランド。

 ずいぶん大層な名前だなと幼心ながらに思ったことがある。


 この遊園地には小さい頃はよく来ていたが、中学に上がってからは全く来なくなった。

 そんな遊園地になぜか来たのだ。昌樹さんによると理由は「家族の親睦を深めるため」らしい。

 おれのことを家族と思ってくれるのは嬉しいが、少し複雑な思いになってしまう。

 それに遊園地に行くと昌樹さんが言い出してから、遥香はずっと不機嫌な様子だった。


 おれが家に来てからテンションは常に低めだったが、それよりも低い。恐らく、どん底に近いだろう。家を出る直前に「最悪……」とボソッと呟いたのが、今でも耳に残っている。


 こんなバラバラなグループで果たして、大丈夫なのだろうか。おれは不安を抱えるばかりだった。

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