昼休み
かったるい授業を切り抜け、ようやく待ちに待った昼休み。
おれは弁当を手に中庭の一角にやってきた。
穏やかな日差しと心地よい風が見事に重なるこの場所はおれにとって癒しの場所。
おまけに、ここにはほとんど人が来ない。
これは非常にありがたい。
教室にいると、ぼっちの孤独感が半端ないのだ。
昨日、学食にいったが、あそこも中々もってやばい。おかげで味噌ラーメンを食べたはずなのに、何故か味の記憶がなかったりする。
「さてさて、では……」
おれは弁当のふたをぱかっと開ける。
中には卵焼きに昨日の晩御飯に作ったハンバーグを一口サイズにしたミニハンバーグにきんぴらごぼうと卵焼きに白ご飯だ。
「うん、うまい」
もぐもぐと頬張りながら、中々いい出来だなと自画自賛。
今ごろ、遥香もこの弁当を食べているのだろうか。
さて、上手くごまかせてるといいが。
まぁ弁当箱もなるべく女子が使ってもおかしくないブルーの容器を選んだし、まぁ見た目は大丈夫だと思うけど。
そんなことを思いながら、昼休みは昨日と違い、優雅に過ぎていった。
そして強烈な眠気が襲ってくる午後の授業もなんとか乗り越え、放課後になった。
おれはかばんを手に取り、教室を出る。
その際にちらっと目をやると、遥香は昨日と同じように女子達と楽しそうに談笑していた。
今日もおれより遅く帰るつもりだな。
なら、先に帰って、晩御飯の支度しておくか。
と、その前にスーパー行かないと。冷蔵庫に食材がない。
ちなみに親父から生活用にとクレジットカードとおれの銀行口座に毎月、まとまったお金を振り込んでくれているので、金の心配はいらない。
そういや、あいつの好みってなんだろ。
昔はケーキとか甘いものが好きだったけど、今でもそうなのかな。
そんなことを考えながら、おれはスーパーまでの道を歩いていった。
そして買い物を終え、今は夕方の5時5分。おれは昨日と同じように台所で晩御飯を作っていた。
すると、ガチャっと玄関の扉が開く音が聞こえてきた。どうやら、遥香が帰ってきたらしい。
しかし、リビングに入るドアは開かず、代わりに階段を上がる音が遠くから聞こえてきた。
先に自分の部屋に行ったのか……
リビングに来ても意味ないってことか。それにリビングにはおれがいるしな。
「はぁ……」
なんだか心が痛い……
おれ、そこまで嫌われてるってことかな。
遥香にとって、おれはご飯を作る人くらいにしか思ってないのだろうか。
別に好きになってくれってわけじゃないが、せめてもう少しマシな関係になりたい。
と、一人で勝手に心を痛めていると今度は階段を降りてくる音が聞こえてきたあと、リビングへ入るドアが開いた。
「……」
そこには部屋着に着替えた遥香がいた。
手には今朝おれが手渡した弁当箱が。
「お、おかえり……」
どもる必要がないのに、なぜかどもってしまう。どうやら、二階へ上がったのは先に着替えるためだったようだ。
「うん……」
小さく返事をしてから、遥香はおれの隣に来て、弁当箱を流しに置いた。
「今日さ」
「うん?」
すると、遥香が静かに口を開いた。
唐突に遥香が話しかけてきたので、おれは少しだけ驚いてしまった。
思えば、この家に来てからまともに話しかけてくれるのは、これが初めてなんじゃないだろうか。
「友達にお弁当作れるんだね。って驚かれちゃった……」
「そっか。株が上がって良かったな」
「うん……いや、そうじゃなくて……ええと……」
遥香にしてはずいぶん歯切れの悪い、言いたいことが上手く言えないといった様子だな、こりゃ。
仕方ない。ここは一つ助け船を出してやろう。
「ああ、そうだ。明日の昼はしょうが焼きにしようかなって思うんだけど、いいか?」
「え、あ、うん……」
「よし」
遥香の返事を聞いたあと、おれは使った食器を洗い出した。
了承も得たし、これで何を作ればいいか決まった。
「ありがとう……」
すると、おれの視界から外れた遥香がかすかに絞り出したかのような声でそうお礼を言ってきた。
どういたしまして。
おれは、遥香に見えないように小さく笑うと心の中でそう返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます