転機は突然に
時を遡ること、2時間ほど前。
親父から電話がかかってきた。
親父は普段、普通のサラリーマンとして働いている。ちなみに母さんはいない。
おれが5歳の時に病気で亡くなった。
乳ガンだったそうだ。
当時のおれは母さんについて、あまり覚えていないが、母さんが亡くなった時、滅多に泣かない親父が声も出せないほど、号泣していたことだけははっきりと覚えている。
それから親父はおれを育てるため、一生懸命働いてくれた。幼いおれとの時間もきちんと作りながら。世間的には良い父親と呼べるだろう。
仕事で忙しく、疲れているはずなのに休みの度にどこかに遊びに連れて行ってくれる親父をおれは小さい頃から好きだったし、尊敬していた。
そんな親父からの電話。
「悪い。父さん、明日から急に海外に赴任になったんだ。だからお前、今日から門川さん家に住むことになったから」
「は……?」
何いってんの、この人。
カドカワサンチニスムコトニナッタ?
ていうか、海外ってなに?
いきなり過ぎるだろ。どんな人事だよ。
突然の報告に頭の中は混乱するばかりだった。
しかし、親父の電話の直後にこんな時間にも関わらず、引っ越し業者がやってきて、あっという間に荷造りされ、そのままトラックで運ばれ、今に至る。
「
玄関が開くと同時にやたら体格の良い男性に抱き締められる。
力、強いな、相変わらず……
「はは、お久しぶりです……」
とりあえずひきつった笑みを浮かべておく。
おれを抱き締めているこの男性は門川
体格のいい身体をしているが、別に危ない仕事をしているわけでもなく、大手の警備会社に勤めている。
そして親父の昔からの親友でもあり、おれがまだ小さい頃はよく家族ぐるみで遊んだものだ。
「ほんと、いつの間にか大きくなっちゃって」
その横でほわーんとした表情でおれを見つめているのは、昌樹さんの奥さんの
年齢を感じさせない容姿におっとりとした雰囲気、これが大人の色香なのかと思う。
これでも、この人も昌樹さんと同じ警備会社に勤めている。
「……」
そして、京香さんから少し離れたところで壁にもたれかかりながら、腕を組み、こちらを睨んでいる女の子がチラリと見えた。
彼女の名前は門川
昌樹さんと京香さんの一人娘だ。
すらっとモデルのような細身の身体に背中まであるロングヘア、そしてよどみのない黒い目の持ち主で、正直かなりの美少女だ。
その上、俗に言う才色兼備であり、京香さん譲りの容姿に昌樹さん譲りの運動神経と頭脳。
まさに超人とも言えるだろう。おれとは月とすっぽんのような存在だ。
そんな彼女とは小さい頃、よく遊んでいたが、中学に入ってからは関わらなくなった。
理由はと聞かれれば、上手く言えないが、お互い、異性として意識し出す時期だったからかもしれない。
高校もこれまた偶然同じで、さらにはクラスも同じときたが、未だに挨拶すらしたことがない。まぁこれには色々理由があって……
とにかく、向こうは常にクラスの中心人物的な存在。
そんなやつと一つ屋根の下で暮らすことになるとは、夢にも思っていなかった。
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