第12話 突然の乱入者

 神出鬼没の大泥棒、オダン三世が城内に入り込んだ。

 狙いは俺、明智勇刀。なんとしても捕まえよう。


「オダンは、忍衆を倒しながら天守閣に急行中。屋根に出ました!」


 屋根を走り、上階へ繋がるはしごを使って四階へ渡るオダンと勝家。

 外まで見える監視カメラか。どうやってんだろ。


「なんであんなところにはしごが?」


「手引きしているものがいるねえ」


 忍者の格好をしながらオダンを誘導するものがいる。

 物凄い速さで弓を打つ男だ。


「なんだあいつ?」


「蘭丸。オダンの、仲間」


「データ照合完了。森蘭丸。弓の早打ちコンマ二秒の凄腕ですね」


「ほう、愉快愉快。どうせなら強い相手じゃなくっちゃね」


 身のこなしの軽さで包囲網を突破し、天守閣までの道を突き進むオダン。


「こりゃまずいんじゃないか?」


「そうだね。しかし、ここまで上がってくる手段は一つさ。イエヤス、結界は?」


「すでに張ってございます」


 城全体に結界が張られ、半透明な光が包んでいた。


「これで逃げ道はない。あとは下に降りるだけさ」


「降りる?」


「ここの一つ下は特別製。激しい戦闘に耐えられるように作られている」


「オダン、下に、来た」


「全隔壁降ろせ。行くよ勇刀」


 そしてだだっ広い部屋に俺達とオダン一味がいる。


「お初にお目にかかる。オレが天下の大泥棒オダン三世だ」


「森蘭丸」


「柴田勝家にござる」


 意外なほど堂々としているな。あの余裕はどこから生まれているんだろう。

 とりあえずこちらも自己紹介を済ます。


「オレの狙いは明智勇刀だけだ。素直に渡してくれりゃあ手荒な真似はしないぜ」


「断る。勇刀は我らの宝。勇刀に代わる財産なし!」


「随分と好かれておるな」


「嬉しい限りだよ」


「それにしては好意を表に出さないよねえ?」


 ノブナガが責める口調だ。そりゃ恥ずかしいからな。口には出さないさ。


「男は無駄口叩くもんじゃない」


「蘭も賛成です。口数が多い殿にはほとほと困り果てておりまして」


「無駄話は結構! 殿、ここは戦場ゆえ」


「んじゃ、明智くん争奪バトルだ!」


 オダンの連射できる小型火縄銃を開始の合図とし、一斉に戦い始める。


「斬り捨て御免!」


「負けません。私の正義を貫くために!」


 柴田の槍とイエヤスさんの薙刀がぶつかり火花を散らす。


「ワシと斬り結ぶか、面白いぞ娘!」


「力押しでは負ける……手数と法術で!」


 氷やら炎やらを交えての攻めは、確実に柴田の体力を削ぐ。

 一方ヒデヨシと蘭丸は。


「弓は、当たらなければ、いい。懐に、ご注意」


 分身して蘭丸に迫る。しかしその分身全てを、驚異的なスピードで撃ち落としていく。


「接近される前に全て撃ち落せば良いだけ。殿の天下は渡さん!」


「これは、やっかい」


 そしてノブナガとオダンの勝負も一進一退である。

 剣術も射撃も優秀らしく、オダンの飄々とした態度と身のこなしは一級品だ。


「愉快だね。だがオダン、君には勝てない理由がある!」


「ほっほーう気になるじゃないの。倒れる前に話してくんない?」


「愛だ! 勇刀への愛の力が、離れていても伝わる愛が我の力よ!」


「いーい話だこと。ならその愛のもとをいただくぜい!」


 ノブナガに向けて煙幕を投げつけ、怯んだすきに俺に向かって猛ダッシュ。


「ほいっと、つーかまーえた」


 俺の背後で火縄銃を突きつけているオダン。まあそうくるわな。


「さあ、これで勝負ありだ。勇刀くんを傷つけたくなけりゃあ、降参しな」


「ふっふっふ、殿の勝ちだな」


「この勝負、このような幕引きは少々残念ですな」


「勝てば官軍さ」


 すっかり罠にはめたつもりなんだろう。

 だがうちのメンバーが焦っていないことに気が付かないとは。


「まだまだ甘いな。俺を捕まえたら勝ちってのはまあ……わからんでもない」


「だろ? なら何が甘いってんだ?」


「俺を捕まえるってのはな、意外と難しいんだぜ」


 あらかじめベルトに印籠を刺しておいた。あとは叫ぶだけ。


「変身!!」


「なにい!?」


 強い光を発しながら変身。光で怯んだオダンの腹に拳を叩き込む。


「仮面ノブダーブレイブ。久しぶりに変身完了ってな」


「うおぉ……今のは効いたぜ」


 くの字に曲がって倒れているオダン。ダメージは相当なもんだろう。


「降参しろ。オダンがどうなっても……」


 突然城が揺れる。わけもわからず振動に身構える一同。


「うおっ!? なんだ!」


「あっちゃー間に合わなかったか」


「どういうことだオダン! これも貴殿の策か!」


「いんやぜーんぜん。どうやら戦っている場合じゃなくなっちまったな」


『伝令! 謎の軍勢が我が織田城に砲撃を仕掛けております!』


「どういうこと?」


 立体映像が部屋の中央に浮かぶ。黒い鎧の軍が、城に向けて砲撃している。


「ああ、ありゃ打ち切り軍だ」


「なんだよその名前は」


「オレたちゃ信長派生キャラだ。だが安易に信長関連の物語を増やしすぎ、数が多くなりすぎた」


「だから公認作品を決めるために、ノブナガファイトはあるんだろ?」


「ああ、だがそれとは別に……作品を終わらせるために打ち切り軍が存在する」


「んなアホな」


 どんだけ暇な連中なんだよそいつら。もう存在がアホだ。


「聞いたことがあるよ。打ち切り軍に敗れると物語が終わると」


「ですが、逆に勝てば完結できるともいい伝えられております」


「完結と打ち切りはどう違うんだよ?」


「完結すれば続編だって出せる。第二部を始めてもいい。だが、打ち切られたら二度とその作品に光は当たらない。未来が消えてしまうんだ」


 すっかり戦う意志をなくし、解説してくれるオダン。


「そいつらを倒すために、明智勇刀の能力が必要だったのさ」


「必要って言われても……俺の力は女にしか使えないぞ?」


「ああ、予告状出してから知ったぜ。だもんでノブナガの嬢ちゃんも倒して仲間にしようかと思ったんだけどな。まーさか返り討ちにあっちまうとはなあ」


 やれやれみたいなポーズだ。こいつ余裕あるなあ。


「こうなれば恥を忍んでお頼み申す。どうか打ち切り軍を倒すため、力をお貸しください」


「やつらは殿のアジトを潰し、この城を新たな拠点にしようとしています」


「つまり我らは戦うしかない、か。策士だねえオダン」


「ヌフフフ、もっと褒めてくれてもいいのよ?」


「調子に、乗るな」


「通信使のお嬢ちゃん。砲撃している連中の更に奥を映せるかい?」


 困惑しているオペレーターに、ノブナガがやれと命令する。

 奥には黒いトゲトゲの鎧を着た存在。


「なんだいあれは? 中身が無いじゃないか」


 でっかい鎧だ。鎧が黒いオーラを纏っている。

 オーラは鎧から吹き出ており、中は真っ黒であった。

 人が入っているわけじゃないのか。


「あいつが総大将だ。あれさえ潰しちまえばいい。ノブナガファイトの世界に存在するのは、あれで全部のはずさ。そして一番勝てる可能性があるのは、この軍だ」


「巻き込んでしまった償いはする。我ら三人、やつらを倒すために全力を尽くそう」


「どうするの、お館様」


「あれからは悪意しか感じません。正義のため、戦うのであれば……」


「やるよ。この城は我らの、勇刀との思い出が詰まっているんだ」


「ノブナガ……」


 この城で色々なことがあった。毎日騒がしくも楽しい日々。それが失われる。

 なら俺の往く道は一つ。


「やろう。俺だってこの場所が好きだ。失いたくない。手放したくないもんだってある。あんな連中、ノブナガ軍が勝てない相手じゃないはずだ」


「決まりだね」


「ヒデヨシは、お館様と、勇刀に、ついて行く」


「私もです。この身は勇刀様のもの。どこまでもおともいたします」


 全員の気持ちが一つになった。みんなこの場所が好きなんだ。

 自分の城一つ守れなくて、この先戦い抜くことなんてできやしない。


「俺達の力、見せてやろうぜノブナガ!!」


「ああ! 天下分け目の大合戦だ!!」

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