第11話 オダン三世

 冬が三日で終わって今は夏。毎度おなじみ天守閣。


「あっつい! 体ぶっ壊れるわ!」


 俺よく体調崩さないよマジで。しんどい。

 天守閣の外に出たらもう超暑いでやんの。


「あーもう外には出ないからな」


 襖を閉めて、天守閣の中に引きこもる。

 中は冷房がきいているからな。

 そしてノブナガの要望により。


「んっ、そうそう……ゆっくり……ゆっくりだよ勇刀くん」


「はいはい、こうですかっと」


「いい感じだ……手馴れているね。私以外の女の子にもしているのかな?」


「いんや、他人に耳かきしたのは初めてだよ」


 膝枕で耳かきなんぞしていたりする。俺がする側だ。


「そうかい。勇刀くんの初めてかい。それは嬉しいね。初めての女だね」


「はいはい下品な話はそこまでだ」


「おやおや、どうして下品だと思ったのかな? いけない勇刀くんだね」


「耳かきしてやらないぞ」


「いじわるな家臣だ。いじわるお兄様かな?」


「そういや義兄弟でしたねっと。できたぜ」


 なんか桃園の誓いやったのが遠い昔のようだ。


「三国志のノブナガとか来ないかな?」


「時代が違うだろ。信長そのものがタイムスリップしないとダメじゃないか」


「そこは、気合」


「まさかの精神論だよ」


 信長キャラが三国志に関わるには、本当に過去に戻るしかないなあ。

 自然に信長をどう絡めるか考えているあたり、相当この世界に毒されている。


「過去に行っても軍がないからねえ」


「異国の人、歓迎は、されそうにない」


「だな。相当難しいぜ」


 まったくもって無駄なことに頭を使う俺達。

 無駄だなあ。でものんびりできているってことだよな。


「おやつタイム、カルシウム、補給」


「今日のおやつは……魚?」


「こうなご、佃煮」


 小さい魚が沢山佃煮にされている。いい匂いだ。


「塩分、補給」


「ん、美味いな」


 ヒデヨシのおやつはハズレがない。いつもどっから持ってきているんだろうな。


「ご飯が欲しくなるね」


「でも食うと晩飯とか入らないぞ」


「ほどほどに、お茶と一緒に、食べる」


 お茶と佃煮。若いもののおやつじゃないけど悪くない。


「のんびり、まったり」


「いいことだな」


「お館様! 大変です!」


 イエヤスさんが駆け込んできた。なにやら手には紙。大慌てだ。


「どうしたんだい血相変えて」


「よ……予告状が届きました!!」


「予告状?」


 よくわからんので見てみよう。


『別世界のノブナガへ。最近頭角を現してきたところ悪いが、その進軍もここまでだ。今宵、勝利の鍵である明智勇刀を頂きに参上いたします。こっちで有効活用するから、お別れの挨拶でも済ませておくんだな。オダン三世より』


「オダン三世?」


「あの有名な大怪盗、初代織田信長の子孫だよ」


「戦国武将ですけど!? 初代からして職業違うのかよ!?」


「戦国武将のかたわら、せっせと、泥棒稼業」


「両立できんのかそれ」


 しかし怪盗ねえ……俺を盗んでどうしようってんだか。


「勇刀はこの戦いの鍵だ。渡すわけにはいかない」


「勇刀は、三人の、共有物」


「いつそうなった!?」


「ご安心ください。この命に変えてもお守りいたします」


「それはどうも……俺が狙われるか……初めてのパターンだな」


 これまではノブナガを狙ってくる連中ばかりだったしなあ。

 どこまで通用するか知らないが、警戒しておこう。


「つきっきりで護衛いたします。入浴時の背中流し。就寝時の添い寝。むらむらした時の処理。全てこのイエヤスが受け止めましょう」


「あんたブレないな!?」


「添い寝は、渡すべき」


「では我が背中流しだね」


「許可した覚えはない!!」


 まずい俺の貞操が奪われる。死守しよう。

 オダンより先に奪ってきそうだよ。


「では、責任持ってわたくしが処理しますので」


「聞けや! 怪盗が来るんだろ? まず城の警備を固めろよ!」


「もう、伝えて、ある。警備は、増やす。忍も、配置完了」


「であるか。ならば我らで天守閣にこもろうではないか」


 いつの間に……こんな姿でも戦国武将なんだなあ。


「あとは天守閣に近づくものを撃ち落として、屋根にも警備をつけるだけさ」


「一晩の辛抱です。天守閣に詰めていれば、わたくしが必ずお守りいたします」


「イエヤスの、結界は、強いから、安心」


「結界か……しかし、俺を盗むのが目的ねえ」


「そうだね、一応勇刀の存在は極秘扱いなんだけれど。流石はオダン三世」


 そして夜が訪れる。城は万全の警備でオダン三世を迎えるんだけど。


「さてさてどうなるかな? 我はちょっと楽しみだよ」


 普通に天守閣で待っていた。下手に移動するよりも、一番高いところで少数により警備することを選択。


「予告状を出したからには、必ず今夜中に来るだろう。逆に朝を迎えてしまえば我らの勝ちだ」


「そういうもんか……」


 既に夜九時。夕方に風呂に入っておいたし、飯も食った。

 準備万端で待機していたが、突然部屋の明かりが消える。


「なんだ? どうした?」


「落ち着きたまえ。想定内だよ。烈火!」


 ノブナガの術で部屋に炎が浮く。妖術だか陰陽術だか知らんが凄いな。


「さ、どこからくる? オダン三世」


「報告! 城内の照明が消えました。電源をたたれた模様!」


「旧式に切り替えろ。我らの城には両方あるだろう?」


「はっ!」


 くのいちさんが報告を終えて消えた。

 最新の蛍光灯やら壁にある松明やらランプまで、城の照明は新旧ごっちゃだ。

 すべての設備でそうなっている。これもノブナガファイトの特性だろう。


「これは……侵入されたかな?」


「かもしれません。気をつけてください勇刀様」


「モニター、オン」


 たくさんの立体映像には、廊下や主要設備の監視映像が映し出されている。

 これは電力が天守閣に存在する、完全に別系統の設備だ。


「異常なし。忍、報告」


『城門異常なし』


『厨房異常なし』


『二階異常なし』


 インカムを付けた忍者から次々と報告があがる。


「勇刀は」


『おさわりマン』


「合言葉、完了」


「なんだそれ!? お前合言葉もうちょっと考えろや!」


 まだおさわりマンを引っ張るかこやつめ。

 このままだと俺の風評がえらいことになってしまうぞ。


「三階隔壁閉鎖。オダン発見」


「なに?」


 場内にサイレンとほら貝が鳴り響く。

 同時に廊下の隔壁が降り、三階はあっという間に壁だらけだ。


「ヒデヨシ、なんでわかった?」


「合言葉は囮。おさわりマンのときに、いやらしい手つきを、する」


「それが本当の合図というわけだね」


「これは、一度も文章にも、指示にも、出していない。馴染みの忍じゃないと、知らない」


「ならば新人は知らないのでは?」


「全員、監視カメラの、位置を把握していた」


 そういや全員カメラ目線で合言葉を言っていたな。


「位置を教えるのは、こっちに来て二週間後の忍。知らないはずがない」


『ヌフフフ、やーるじゃないのお嬢ちゃん』


 モニターのくのいちから男の声がする。

 見つかったというのに、心底愉快そうだ。


「やっぱり、お前が」


 くのいちの変装を解き、ちょんまげにヒゲでスーツのおっさんが現れた。


『そう、俺の名はオダ~ン三世』


 カメラに向かって指で銃の形を作り、撃つ動作とともにウインク。

 えらい余裕ぶっこいてくれるじゃないか。


「オダーン! 逮捕だー!!」


 天井や床から現れた大量のくのいちがオダンを取り囲む。


『明智勇刀、俺は狙った獲物は逃さねえ。覚悟して待ってな』


「囲まれているくせに何を言う。どう抜け出すっていうんだい?」


『こうやってさ』


 オダンの横の壁が丸く切り取られる。中からは甲冑を着込んだ大男が登場。

 ちょっと短めの槍を持っている。あれで斬ったのか。


『殿! 無事か!』


『ナーイス勝家』


「勝家?」


『十三代目、柴田勝家! 趣味は修行と鍛錬と特訓でござる』


『いいから逃げるぜ。目標は勇刀だ』


「逃してはなりません! 追いなさい!」


 こうしてオダン三世との戦いが始まった。

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